昨年度に引き続き、エロー県文書館において、公営住宅ラ・ペルゴラに関する資料のチェックおよび収集・分析を進めた。チェックするべき資料を一応すべてチェックしたと判断できる地点に至ったため、ラ・ペルゴラにおける都市問題の発生水準を評価した。その結果、境界を接する分譲団地であれ、先に分析の対象としたプティ・バールと比して、ラ・ベルゴラにおける都市問題の発生水準は大幅に低いことが明らかとなった。 ついで「都市問題の生じにくさ」のメカニズムを明らかにすることを目指して、当該資料の分析を進めた。その結果、団地建物の形状や配置(空間構造)と住民コミュニティ(人的紐帯)の強弱のあいだには一定の関係があり、「閉ざされた空間構造、強い人的紐帯」あるいは「開かれた空間構造、弱い人的紐帯」の場合には都市問題が生じにくいことが明らかになった。逆に「閉ざされた空間構造、弱い人的紐帯」あるいは「開かれた空間構造、強い人的紐帯」の場合には、都市問題が生じる余地が生まれる。 ラ・ペルゴラの場合、当初は「閉ざされた空間構造、強い人的紐帯」を特徴としていたが、1990年代初頭に再開発計画の対象となった際に一部建物が解体され、結果として「開かれた空間構造、弱い人的紐帯」を特徴とする団地に性格を変えた。この場合、いずれにしても「都市問題が生じにくい」メカニズムを保持しているということに変わりはない。これが、同団地と、近年まで「都市問題が生じやすい」特徴をもっていたプティ・バールの相違の源泉をなしている。 ある地域における都市問題を分析する際には、「空間構造」と「人的紐帯」という二つの次元の関係を検討することが必要かつ有効である。
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