研究課題/領域番号 |
15K02930
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
姉川 雄大 千葉大学, アカデミック・リンク・センター, 特任助教 (00554304)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 戦間期 / 東欧 / 市民社会 / 自由主義 / 権威主義 / 暴力 / ハンガリー |
研究実績の概要 |
第1に、第一次世界大戦後ヨーロッパにおける自由主義と権威主義に関する問題領域における課題と論点を、特に以下の2点のように整理した。(1)戦間期ハンガリー社会の歴史的位置付けについて、その現代的な意味という観点から、一定の整理を行った。ここでは、現代ハンガリー政治における戦間期史像の重要性について明らかにしたが、この点はより詳細に検討する余地も残されているように思われる。(2)またより広い視点から、20世紀ヨーロッパ国民国家研究・ナショナリズム研究の論点整理も行った。ここでは、国民化の成否・未達成を指摘することが歴史学的な意味を有さないことなどを中心に論じた(以下の(2)の成果はここで提示した課題に対する回答を兼ねている)。 第2に、史資料調査・収集・整理を通じ、戦間期ハンガリーの市民社会について以下の2点ような検討を行った。(1)戦間期ハンガリーの市民社会における排除性・暴力性と、その人種主義との関連について、特に地域社会と福祉政策の接点に注目することにより明らかにした。ここでは、戦間期ハンガリーの「市民社会」における包摂/排除の機能と、福祉政策における包摂/排除の基準とが、相互にその意味をずらしつつも機能させあうようなシステムとなっていたことが明らかになった。(2)また、その第一次世界大戦直後期(暴力の体制内化)からの連続性を、特に地域社会と国民化政策の主要な接点のひとつとなった体育団体に注目することによって明らかにした。ここでは、第一に、暴力を体制内化する(寡頭制的)自由主義に端を発する政治が、それゆえに国民化政策の権威主義化をもたらしたという過程と、第二に、この過程が国民化の貫徹を制限するような地域社会から始まっていることが、明らかになった。これら2点をあわせ、第一次世界大戦後ハンガリーの市民社会と排除性・暴力性という研究課題において一定の成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、①課題と論点の整理、②資料調査・収集と文献調査、③史資料の整理と検討の3点を行うとしていた。 ②③については、予定通りの進展があったうえ、第一次世界大戦後ハンガリーの市民社会と暴力の体制内化という研究課題について、平成28年度中に、当初平成29年度に予定していた成果の公表に至ったという点で、当初の計画以上の進展があったといえる。 他方で、①については、本年度に公表したものは戦間期ハンガリー史研究の現代社会における意味を説明するものとしてはさらなる検討の余地があるように思われる。また暴力の体制内化に関してもさらに研究を先に進めることが可能であるように思われ、その意味でやはり、さらに若干の史資料の調査・整理・検討の余地があるといえる。 これらをあわせ考えれば、(2)おおむね順調に進展している、と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に対して、計画以上の進展がある部分と、検討の余地を残した部分とをあわせ考え、平成29年度の研究の推進方策は以下のようになる。 ①課題と論点の整理の継続:特に戦間期ハンガリー史研究の現代的意義をさらに明らかにすることを中心として、近現代ヨーロッパの自由主義と権威主義に関する研究領域、第一次世界大戦後東欧の権威主義体制下の市民社会に関する研究領域、第一次世界大戦直後および戦間期のハンガリーにおける暴力と社会に関する研究領域の3層にまたがる課題・論点整理を行い、そのためのハンガリー内外における当該テーマの諸研究の調査を継続する。 ②史資料の調査・収集・整理と検討:とりわけ第一次世界大戦直後の「暴力の体制内化」の実態を中心に、さらなる検討の余地があるように思われる点を中心に検討をすすめることによって、平成28年度に公表された成果を補完する。またこの検討のため、必要な史資料の調査・収集と、すでに収集したものの未整理・未検討となっている資料の整理を行う。 ③研究成果の発表:②の検討の結果を発表し、これまでのものとあわせ本課題研究の成果とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに収集した史資料のうち、その一部を活用した成果の公表を優先させたため、未整理部分が生じた。この整理作業補助のための人件費を残したことが、次年度使用額が生じた理由の大部分を占める。また、課題・論点整理について、本年度の実績には補足すべき余地が残されたが、これに関する資料費も、次年度使用額の一部である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の使用額は、主に資料調査・収集のための資料費、資料調査・収集のための旅費、収集資料の整理のために必要な物品・消耗品等の費用、資料整理作業補助のための人件費で構成される。このうち、人件費については、平成28年度までに収集した資料整理と、平成29年度の実施が計画されている収集資料整理の、両方の目的のために使用する。
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