研究実績の概要 |
申請者は、平成24~26年度基盤研究(C)「ノルマン・シチリア王国農民の研究~アラビア語、ギリシャ語、ラテン語史料の検討から」の助成を得て、複数言語が記されている手書き羊皮紙文書を詳細に検討し、アラビア語の「ムルス」は文書の名簿に追加された者たちを示す言葉であり、JohnsやMetcalfeが主張するような、ウィラーヌスの二つの階層の一方を表す言葉ではないことを明らかにした。本研究はその研究成果をさらに発展させ、二つの固定した不自由農民層という認識が誤りであることを実証しようとするものである。そのために2015年度は以下の二つの作業を並行して行った。 一つ目は、二つの固定した不自由農民層という認識を前提とする近年の重要な研究成果の検討作業である。二つ目は、入手済の史料を検討し、アラビア語、ギリシャ語、ラテン語で農民を指すと考えられる主要な史料用語(具体的には、ラテン語のvillanus, servus, servi glebae, rustici, adscriptitii, inscriptitii, homines, coloni, aldii, metochii, cortisani, angararii, homines censiles、ギリシャ語のparoikoi, andropoi, enapografoi, exografoi、アラビア語のrijal al-jara’id, muls, hursh, mahallat, ghuraba’など)を整理する作業である。三つの言語のどの言葉がどの言葉に対応しているのか、また、それぞれの言葉の概念上の相違がどこにあるのかを可能なかぎり明らかにした。
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