研究実績の概要 |
応募者は、平成24~26年度基盤研究(C)「ノルマン・シチリア王国農民の研究~アラビア語、ギリシャ語、ラテン語史料の検討から」の助成を得て、手書き羊皮紙文書を検討し、アラビア語の「ムルスmuls」という言葉は文書の名簿に追加された者たちを示す言葉であり、Jeremy JohnsやAlex Metcalfe、Annliese Nefたちが主張するような、ウィラーヌス(villanus 不自由農民)の二つの階層の一方を表す言葉ではないという仮説を提示し、その仮説をアメリカ中世学会年次大会(Annual Meeting, Medieval Academy America, UCLA, 10 April 2014)で報告し、『西洋中世研究』6号(2014年12月)に発表した。本研究は、その研究をさらに発展させたもので、それまでに確認することのできなかった多言語羊皮紙文書(スペインのトレドにある古文書館所蔵のアラビア語、ギリシア語、ラテン語羊皮紙文書)を詳細に検討し、アラビア語の「ムルス」と「フルシュ」という二つの言葉から二つの固定した不自由農民層を導きだすことはできないという前述の仮説が間違っていないことを確認し、実際には領主との関係で自由度が変わる不自由農民層が存在したにすぎないことを明らかにした。二つの不自由農民の階層という理解に象徴される、強力な王権のもとでの均一な法的身分の存在や、アラビストたちが想定する大規模な住民調査の存在とは逆の現実、つまり、農民の状態はその領主との関係に応じて大きく異なっていたことが示唆される。 この研究成果は、2017年12月末、英文オンラインジャーナルSpicilegiumに、英語論文("Classification of Villeins in Medieval Sicily," Spicilegium, vol.1, 2017, pp. 3-16)として公刊した。
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