本研究は、中世後期ヨーロッパの諸都市において実質的に教会を管理していた市参事会から任命される俗人の教区教会後見人の活動から、帝国都市ニュルンベルクを例に都市と教会の共生的関係の考察を行った。教会後見人とは教会建設財団(羅:fabrica ecclesiae・独:Kirchenfabrik)の長を指し、教会建設財団は元々は寄進者が教会に寄進した財産を管理する財団形式の組織で、寄進者の指示通りに寄進財産を活用するために設立された。教会後見人はやがて教会の全財産を管理するようになり、最終的にはその教会の下級聖職者の人事権を掌握した。 今年度は8月に約3週間、バイエルン州立ニュルンベルク文書館、市立ニュルンベルク文書館、ゲルマン民族博物館附属図書館にて証書を中心に史料調査を行い、またエアランゲン大学附属の図書館にて二次文献を閲覧した。 3年間の史料調査で、15世紀後半に入ってからは、市民が教区教会へ寄進する際、都市の金庫(Losungstube)から返還請求が不可能な都市債権を購入し、その年利である「Ewiegeld(直訳:永遠の金)」と呼ばれる金利を教区教会に寄進する事例が増加していたことを確認した。教会後見人の登場する証書の多くは、このEwiggeld購入に関するもので、場合によっては寄進者に代わって教会後見人が都市金庫よりEwiggeldを購入している事例も存在した。教会後見人は、単に教会の財産を管理するだけではなく、教会への寄進を希望する者が円滑に寄進を実施できるよう助力していたことが明らかとなった。 今年度の研究成果の一部は、教会後見人を任命した市参事会と教会との関係に関する論考として宗教改革と中世の関係に関する論考を一本上梓し、また都市のアイデンティティに関する論文が一本印刷中である(7月に刊行予定)。現在、本研究課題の主成果を投稿論文として執筆中である。
|