研究課題/領域番号 |
15K02936
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
和田 光弘 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (10220964)
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研究分担者 |
森脇 由美子 三重大学, 人文学部, 教授 (10314105)
久田 由佳子 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (40300131)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大西洋史 / アトランティック・ヒストリー / アメリカ史 / アメリカ独立革命 / 未刊行手稿史料 / オネイダ運河 / 海事史 / 連邦議会図書館 |
研究実績の概要 |
研究代表者、研究分担者、研究協力者は、それぞれの担当する研究課題を出発点として本研究のテーマにアプローチした。主要設備としては、名古屋大学・三重大学・愛知県立大学において関連史資料の収集を鋭意おこなった。 研究代表者の和田は、直近の新たな研究に加えて、これまで発表してきた論考等に大幅に加筆修正を施して単著『記録と記憶のアメリカ――モノが語る近世』を上梓した。また、独立革命期・建国期における私掠船の船長を俎上に載せ、同船長に関する私蔵の未刊行手稿史料(領収書、請求書、運賃明細、書簡等)数十点を分類・整理した上で撮影し、史料の物理的組成(テクスチャ―)の検討(料紙の法量や簀の目の向き、透かしの有無と内容、捺印の有無と内容等)をおこなった。研究分担者の森脇は、オネイダ運河の建設に尽力した地域の名士ゼブロン・ダグラス大佐の一族に伝えられていた貴重な手稿史料(私蔵)を主たる対象として、テクスチャ―と原文テクストの分析を進めた。研究分担者の久田は、ボストン公共図書館とワシントンの連邦議会図書館で史料調査をおこない、とりわけ連邦議会図書館では、南北戦争期の英国との外交関係に関してトレント号事件に関するイギリスの新聞を丹念に調査し、これまでのテーマをさらに展開させた。研究協力者の笠井は、博士論文を完成させるとともに、植民地時代のボストンの新聞から、およそ30年分に及ぶ新聞記事を精査し、商船の船長や水夫が情報提供者となっている記事を丹念に読み込んだ。 なお、本年度、公開された研究成果は、上記の和田の単著書および笠井の博士論文であるが、来年度には久田の共著書が2点、笠井の共著・共訳書が3点出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各メンバーによる本年度の研究の進捗状況は以下のとおりであり、ほぼ予定通りに進展している。研究代表者の和田は、単著『記録と記憶のアメリカ――モノが語る近世』を上梓するとともに、以前から個人的に収集していた関連史料のオリジナル36点の分析を進め、さらに6点の領収書・出港証等のオリジナル、そして当該の私掠船長が故郷の妻に宛てて出した書簡のオリジナルを3通、妻からの書簡を1通入手した(購入はすべて私費による)。これらの追加史料は本年度、新たにマーケットに放出されたもので、一部のみしか落手できなかったが、放出された全史料の点数・内容については完全に把握している。研究分担者の森脇は、ダグラス大佐の一族に伝えられた史料の分析をおこない、運河建設がどのようなリーダーシップによって、またどのようなプロセスで実施されたか、その手がかりを掴みつつある。研究分担者の久田は、1861年11月に合衆国海軍が英国郵便船トレント号を攻撃、停止させて、同号に乗船していた南部連合の外交官2名を身柄拘束したトレント号事件に焦点を当て、南北戦争勃発からこの事件までのイギリスの世論を追うことによって、米英関係史に新しい視座を持ち込むことを目指した。調査対象とした新聞は、 ロンドンで発行された『デイリー・ニュース』紙(初代編集長チャールズ・ディケンズ)、『リヴァプール・マーキュリー』紙、『リーズ・マーキュリー』紙、『バーミンガム・デイリー・ポスト』紙である。研究協力者の笠井は、膨大な新聞記事の精査から、植民地社会における情報源としての船乗りの重要性を指摘するとともに、博士論文「植民地時代のボストンにおける船乗りと西インド貿易(1680年‐1739年)」を完成させた。 なお、ピッツバーグ大学特別教授のマーカス・レディカー氏を招聘の予定であったが、先方のスケジュールの変更もあって、残念ながら本年度は実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のメンバーは、引き続き各自のテーマに添いつつ研究を深化させる。研究代表者の和田は、大西洋史研究の最新の展開を確認しつつ、私掠船船長の史料に関する原文テクストの翻刻および翻訳を引き続きおこなう。研究分担者の森脇は、ミクロな地域社会が大西洋のネットワークとの結合によって受けた影響に留意しつつ、ダグラス大佐一族に残された史料の分析を継続する。研究分担者の久田は、『デイリー・ニュース』紙、『リヴァプール・マーキュリー』紙等、イギリス本国側からの史料(議会資料、新聞記事等)を調査・検討する。研究協力者の笠井は、2016年6月の日本アメリカ史学会年次大会での研究報告を控えており、航海法の施行直後から植民地時代末期に至るまでの通関手続きの実態を把握すべく、植民地の主要港で記録された船舶の積荷情報の正確性および矛盾の有無を鋭意調査する。 主要設備としては名古屋大学・三重大学・愛知県立大学において、関連史資料の収集を引き続き行い、遺漏のないよう努める。また、必要に応じて、合衆国の文書館等での調査を実施したい。さらに、ピッツバーグ大学特別教授のレディカー氏を招聘し、大西洋史の最新の知見を確認するとともに、本研究プロジェクトの方向性について助言を受けたい(研究の進捗状況に応じて、招聘については次年度の可能性もある)。繰り越した基金については、主としてこのレディカー氏の招聘に関わる費目に用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ピッツバーグ大学特別教授のマーカス・レディカー氏を招聘の予定であったが、先方のスケジュールの変更もあって、残念ながら本年度は実施できなかった。また種々の事情により、メンバーによる海外での調査の一部がおこなえなかった。上記レディカー氏の招聘、および関連の会議等に充てる予定であった金額、ならびに旅費等相当分の未使用等が次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
ピッツバーグ大学特別教授のレディカー氏を招聘し、大西洋史の最新の知見を確認するとともに、本研究プロジェクトの方向性について助言を受ける予定であり、繰り越した基金については、主としてこのレディカー氏の招聘に関わる費目に用いる予定である。また、実施できなかった海外での調査も適宜おこないたい。
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備考 |
名古屋大学文学研究科西洋史学研究室ホームページ http://www.lit.nagoya-u.ac.jp/~seiyoshi/Staff.html
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