研究実績の概要 |
本年度は、メロヴィング期の諸史料に現れる、隷属民を示す多様な用語(mancipium, servus, ancilla, famulus, vernaculus, puerなど)の調査を行った。法史料のうちフランク族の法典である『サリカ法典』と『リプアリア法典』について、また証書史料としては800年以前に作成され、原本で伝わる証書において用いられた用語を調べることができた。同じく叙述史料のなかでは、トゥール司教グレゴリウスが著した『歴史十書』と聖人伝において隷属民に言及する箇所をほぼ網羅的に拾い上げることができた。法史料において隷属民を表す言葉として頻繁に用いられたのが、mancipium, servusであるのに対して、叙述史料ではpuerという言葉が多いことが明らかになった。 グレゴリウスの諸著作の調査から得られた所見は、「トゥールのグレゴリウスにおける「奴隷」たち」と題して、2015年7月に広島大学で開催された中国四国歴史学地理学協会2015年度大会において発表した。6世紀にはとりわけ王に属する奴隷たちが、様々の命令の実行のために活動していたこと、また王の奴隷も含めて、農業だけではなく、職人的な活動に携わる奴隷や家内奴隷もまた数多く証明されることが明らかになった。これらの奴隷に注目することが、主として農業に従事する奴隷の検討に基づいて、古代ローマ的な奴隷制の消滅の問題を論じてきたこれまでの研究の成果を批判的に検討するのを可能にするという展望を得ることができた。
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