研究実績の概要 |
メロヴィング朝フランク王国における隷属民について多角的に検討する中で得られた所見を、共著とフランス語論文の中で発表した。南川高志編『378年 失われた古代帝国の秩序』においては、第2章「西ヨーロッパ世界の再編」を担当し、その中で誘拐婚の実践において奴隷が重要な役割を果たしていたこと、またそれが古代ローマ期からの伝統であったことを明らかにした。かつて誘拐婚はゲルマン的慣習とみなされてきたが、実際にはローマ社会の慣行が中世初期に継承されたのであった。また、論文集Confiance, bonne foi, fidelite : La notion de fides dans la vie des societes medievales(VIe-XVe s.)に収録された、Quelques reflexions sur les formes de la fides facta(信約の形態に関する若干の考察)の中で、訴えられた奴隷の出頭の約束等に用いられた手続き形式を検討し、同じくこうした形式がゲルマン社会ではなく、ローマ社会に由来することを明らかにした。 また、前年度に引き続き隷属化の諸契機、奴隷解放や隷属身分をめぐる訴訟に着目し、メロヴィング期における自由と隷属の境界をめぐる問題について検討した。その結果、メロヴィング期が終わる頃からカロリング期にかけて、自由身分をめぐる訴訟が急増したことを確認し、この現象が奴隷解放の進展と関連していることを明らかにした。キリスト教の浸透とともに、「教会における奴隷解放」が広まり、それによって教会に賃租を負担する独特な身分集団が形成され、自由と隷属をめぐる境界が次第に曖昧かつ錯綜した状況になっていったのである。かくして、古代ローマ時代以来の奴隷制は消滅への道を歩むことになる。
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