本研究では、都市国家が分立する中世のイタリアにおいて、各都市を横断して流れる河川がそれぞれの都市間関係にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにしようとした。研究期間中のもっとも重要な成果は、イタリア人研究者を3名招聘して河川交通と紛争・秩序に関する講演会を行ったことである。まず2016年2月にパドヴァ大学のダリオ・カンツィアン氏を招聘し、関西中世史研究会の協力を得て「アドリア海、アディジェ川、アルプスの間における資源管理と政治軍事的戦略(12~15世紀)」と題する講演をお願いした。2017年12月にはヴェローナ大学のジャン・マリア・ヴァラニーニ氏を招聘し、関西比較中世都市研究会との共催で「12~15世紀のヴェローナとアディジェ川をめぐる政治経済的関係」と題する講演会を行い、日本史の側から「中世淀川水系の紛争と秩序―日本史の立場から」と題するコメントを得た。最後に、ヴェネト地方との比較の対象として、ボローニャ大学のパオロ・ピリッロ氏を招聘し、2018年12月にイタリア史研究会との共催で「中世のアルノ川とトスカナ地方」と題する講演を行った。これらの講演会を通じて、河川と都市の様々な関係や、河川とそれに沿った陸路を通じた通商・交流の実態、河川交通を維持するために各都市間で結ばれた協約例などを知ることができた。これらの成果をより広く共有すべく、最終年度である本年度には、講演に注をつけてもらい日本語に翻訳して冊子として刊行した。冊子には日本史の側からのコメントも合わせて収録した。また本年度は、1258年に結ばれたヴェネツィアとクレモナの協約に関する論文を執筆した。対エッツェリーノ戦争の最中にあって、ポー川の中流と下流に位置するクレモナとフェッラーラは敵対的な関係にあったが、両者のポー川を通じた通商をヴェネツィアの仲介によって安全に保つために、この協約が結ばれたことを明らかにした。
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