研究課題
平成29年度は、フェルディナントの政策に対するドイツ諸侯、とくにバイエルン公とザクセン選定侯の動向を中心に検討し、その成果を基に本研究全体の成果として下記の4点をまとめた。①アウクスブルク宗教平和の不十分な規定が三十年戦争まで平和を維持し得たのはなぜかという問いは、宗教平和の締結をもって一区切りをつける見方から、これまで等閑視される傾向があった。こうした研究動向とその問題点を、教科書記述を基に宗教改革像を国際的に比較検討した論文集に発表した。②フェルディナント1世の宗教政策は、先行研究の指摘するとおり、自領内と帝国とでは姿勢が異なり、帝国レベルでは宥和的であり、教皇庁と緊張関係にあった。この政策の要因として、トレント公会議に対抗して、帝国の信仰問題を帝国内での国民公会議による解決をはかり、さらに討論会による和解を模索した経過からみると、近年の研究のように彼の人文主義からの影響を強調するよりは、かつて論じられた兄カール5世と甥フェリペ2世との角逐の影響を再評価すべきといえる。③フェルディナント1世のこうした政策について、帝国内では、カトリックとプロテスタントの主導的役割を果たしたバイエルン公、ザクセン選定侯が、それぞれ信仰問題を棚上げにする形で皇帝に協力したことが、対立による分裂を回避し、帝国を維持することに繋がっている。その際も、人文主義的な理念による和解とするよりは、現実的な利害関係から協力したと評価する方が妥当と判断しうる。④したがって、フェルディナント1世の統治下では、帝国内の信仰問題が棚上げされたことが、アウクスブルク宗教和議の定着・実質化に寄与したと認められるが、消極的な影響ととらえられることが明らかとなり、そこから帝国国制の上では、マクシミリアン2世期の信仰問題を視野に入れて考察する必要を指摘しえた。
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思想
巻: 1122 ページ: 49-62