本研究課題の目的は、19世紀ドイツの都市公共圏で隆盛した科学の実践と市場経済の関係を再検討することである。具体的には、都市住民の知的活動の拠点だった自発的結社などの非営利団体と、科学関連の市場やそこで営業する業者の施設との接点に着目し、両者の競合・共益的関係の具体相を明らかにする。そして、結社と市場双方への監視・介入を強める公権力の介在を軸に、結社文化・市場・公権力3者の関係性の変化を実証的に検証することで、近代ドイツ科学の制度化を理解する総合的なモデルを提示する。 研究代表者は、考察を効率的に進めるために、歴史的展開に即した以下の3つの論点に分けて考察を進めてきた。 論点(1)自発的結社と市場経済の競合・共益的関係の構築に至る歴史的過程の分析 論点(2)市場原理の拡大にともなる、結社と市場経済の関係性の再編成と、公権力の介在が進展する過程の分析 論点(3)公権力の文化事業への介入の進展に伴い、公共圏の科学が構造化するまでの段階の分析 初年度(平成27年度)は作業仮説を構築した上で論点(1)の考察に必要な史料調査を行い、平成28年度は論点(2)に関連する資料の収集と分析を行った。平成29年度は論点(3)の考察のための史料調査の一部を行ったが、国内で閲覧可能な資料やオンライン・データベースを利用した調査を先行させたため、ドイツにおける資料調査は平成30年度の4月上旬と8月に実施した。年度後半は、これらの資料調査で得られた知見を元に、近代ドイツの都市における科学と市場経済の関係性に関する総合的な考察を進めた。現在、その最終的な成果を論文としてまとめており、今後国際学会等で報告し、最終的なフィードバックを得た上で国内外の学会誌に投稿する予定である。
|