研究課題/領域番号 |
15K02957
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
古山 夕城 明治大学, 文学部, 専任准教授 (10339567)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ギリシア / クレタ / 暗黒 / アルカイック / 法 / 碑文 / 聖所 / ポリス |
研究実績の概要 |
平成28年度は、クレタにおける暗黒期~アルカイック期の法秩序構築について、在アテネ英国研究所と米国古典学研究所の付属図書館にて、近年の発掘と領域研究の情報を得ることに努め、他方で、法の現象化した文字表象に関し、2016年に刊行された古代クレタの法碑文集をもとに考察をすすめた。この研究の成果は、『駿台史学』誌上に「書評 M.Gagarin & P.Perlman, The Laws of Ancient Crete c.650-400 BCE.(Oxford Univ. Press 2016)」として発表し、 加えて、2017年4月1日に明治大学で開催したワークショップで、法碑文出現の歴史的背景を整理した「クレタ古代史の「暗黒」と「空白」」と題する口頭報告を行った。 また、当初の計画を一部修正し、以下の通りギリシア・イタリアおよびオランダにおける資料収集の調査とギリシア・ドイツの現地踏査のため2度の海外調査を実施した。 (a)アテネのアフロディテ聖所遺跡・ピレウス考古学博物館、クレタ島のイタノス・シヴリタ・コモス・エレウテルナの各遺跡およびレシムノン考古学博物館、ペロポネソス半島のイストゥミア・ネメア・エピダウロスの聖所遺跡を実地調査。(b)ローマのヴィラジュリア博物館およびヴァチカン博物館に収蔵の幾何学文様期~古典期前半のギリシア陶器と彫刻を実見観察。(c)オランダのライデン古代博物館とアムステルダム・アラード・ピアソン博物館にてギリシア陶器に描かれるアルカイック期の葬祭礼図像を観察。 (d)クレタ島のイラクリオンとシティアの考古学博物館およびドレーロス・プラエソス・グルニアの東部遺跡、アテネの国民考古学博物館・アクロポリス博物館・ケラミコス遺跡付設博物館を現地調査。(e)ドイツのミュンヘン古代蒐集館および古代彫刻展示館にて暗黒期~アルカイック期の青銅製奉納品と彫刻を観察。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究活動の第2年目として、アルカイック期クレタにおける法秩序の構築に関し、ポリス成立と国家による社会統合の観点から、歴史具体的状況にアプローチする必要性を改めて認識し、クレタ内部の2つの地域を中心に調査と考察を行なった。 一つは、クノッソス・ファイストス・ゴルテュン・プリニアスなどのポリスを、聖所としてはアイヤトリアダ・イダ洞穴・カトシミ・アムニソス・コモスを含む中央地域であり、いま一つは、カヴーシのアゾリア・オレウス・ドレーロス・ラトなどの居住拠点を含む東部地域である。このうち、ゴルテュンからは100件以上の法碑文が報告されており、ドレーロスからは前7世紀後半に遡る現存最古の法碑文が発見されているため、この両者を今後の分析の軸にすることで、クレタにおける法秩序構築と葬祭礼の構造的連関について、研究を取りまとめていく方向性が固まった。 クレタの暗黒期の葬祭礼に関しては、法碑文の出現トポスとなる神殿の登場について、島内各地の発掘と領域調査の成果、そして出土遺物の観察を重ねてデータの蓄積に努めた。 これについても、考古学的分野からメサラ平野西部とミラベロ湾岸域の2地域について領域調査にもとづくデータが得られたので、ゴルテュンとドレーロスという代表的な二つのポリスに関し、背景となる歴史的景観の中で暗黒期からアルカイック期の法秩序構築を考察していく足がかりが得られた。 以上のとおり、2度にわたる海外現地調査によって、昨年度からの課題であった考古学分野における近年の研究状況の把握は十分に達せられたといえる。その結果、より具体的な研究対象としてゴルテュンとドレーロスを設定する段階にまでは到達できた。法碑文については、最新の碑文集への書評を通じて精査を行った。したがって、今年度の研究達成度は90%に届くものと自己評価しており、3年間の研究課題全体については、およそ70%程度の達成度である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成29年度の研究活動は、①二つのポリスに焦点を絞って、法秩序構築と葬祭礼の変容を歴史地域的景観の中での解明、②歴史的伝統の破壊と継承の観点から、ポリスの形成の評価へ向けての考察、③ギリシア世界におけるクレタの現象のように位置づけの検証、という3つの課題を総合的に取り組むこととしたい。そのため再度、ギリシア現地調査とフランス・イギリスでの調査・研究交流を図りたい。ギリシアでは、ゴルテュン・ドレーロスに関する資料・史料の網羅的収集、クレタ島メサラ平野とミラベロ湾岸域の実地踏査を、フランスではルーブル博物館の、イギリスでは大英博物館のアルカイック遺物の実見による観察と図像データ撮影によって関連データの蓄積を重ねる。そして、研究成果を駿台史学会大会で口頭報告し、本研究の方法と意義について専門的知識のある研究者との意見交換・客観的評価のために3度目のワークショップを開催することにしている。最終的には、専門学術雑誌(『駿台史学』『西洋史研究』など)に成果論文として発表する予定である。 (次年度の研究費の使用計画)ゴルテュンとドレーロスを中心とする調査、またアテネ所在の諸研究所での資料収集、欧州の博物館での関連遺物の図像データの集積のため、3週間の海外調査を実施する。具体的には、クレタ島中部および東部の実地踏査に1週間(クノッソスの英国研究所を拠点にゴルテュン遺跡・ファイストス遺跡およびコモス遺跡、アイヨスニコラオスを拠点としてドレーロス遺跡・ラト遺跡・アゾリア遺跡)を充てる。アテネに1週間滞在し英・米・仏・伊の各研究所図書館における資料収集を行なう。そして、ルーブル博物館と大英博物館でアルカイック遺物の実見観察および図像データ撮影を行なう一方、可能であれば英国ギリシア研究協会でのアルカイック期研究者との意見交換を行なうため、1週間の滞在を予定している。
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