クレタの葬祭礼空間の変容を追跡すれば、アルカイック期ポリスの神域は暗黒期の聖所の伝統と形式を継承しつつも、国家形成という新たな状況に対応して、エリート集団だけの儀礼行為の空間となり、そこにはギリシア本土では見られない「メガロン様式」という独特の神殿建築が発達し、その壁面に法碑文を刻まれた。他方で、法碑文と私的銘文の分布と存在状況を比較すると、前者が内陸の9のポリスの神殿壁面のみに出現するという対照的状況と、奉納的意味という後者とも共通する性格を合わせ持つことが判明した。このことは、法碑文の保守的イデオロギーを示すと同時に、祭祀儀礼の集団的身体性を通じて法秩序が社会化される歴史状況を示している。
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