研究課題/領域番号 |
15K02961
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
轟木 敦子 (中村敦子) 愛知学院大学, 文学部, 准教授 (00413782)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アングロ・ノルマン / 貴族 / 中世史 / イングランド / ウェールズ |
研究実績の概要 |
本研究者の課題はアングロ・ノルマン期の有力貴族家系であるチェスター伯家の活動をアングロ・ノルマン王国全体に位置づけ長期的な視野で考察することであり、今年度は同家とウェールズとの関係を調査した。アングロ・ノルマン貴族のウェールズへの進出は、イングランドへの進出に含めて考察されることが多いが、チェスター伯家に関しては、ウェールズへの進出が特に重要な意味を持つことがわかってきた。また、M. LiebermanのThe Medieval March of Wales(2010)や、B. W. Holdenの Lords of the Central Marches English Aristocracy and Frontier Society, 1087-1265(2008)など、ウェルシュ・マーチ、すなわちウェールズとイングランドの境界領域に関する重要な研究が近年続けて公表されていることは、このテーマが改めて注目を浴びていることを示している。ただし、イングランドを基盤とした研究に比べ、ウェールズ側については資料も研究も乏しく、またチェスター伯家が進出した11~12世紀の北部ウェールズの先行研究は少ないため、まず問題設定的な研究から始めなければならない。今年度の成果は、「「ウェールズ史」と「イングランド史」のあいだ-ウェールズ辺境の形成について」『フェネストラ』第2号、「北部ウェールズとチェスター伯」『愛知学院大学文学部紀要』として公表することができた。 今年度の研究から、チェスター伯家にとってのウェールズとイングランドとの境界領域の意味(チェスター伯家がノルマンディにおいても境界領域に所領を有したこととあわせて興味深い)と、ウェールズ進出の際は有力家臣たちの活躍がわかった。活動の具体的分析を今後の作業として行い、チェスター伯家の活動の総合的な評価にまとめる作業を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画よりやや遅れていると判断した理由としては、ウェルシュ・マーチが歴史におけるフロンティア研究と関連しているため、その背景を理解する作業を行っていること、またH. Pryceによる中世ウェールズ史研究の土台を築いた19世紀の歴史家J. E. Lloydについてのまとまった研究(J.E. Lloyd and the Creation of Welsh History (2011))が公表されるなど、ウェールズ史の研究動向が近年見直されているため、ウェールズ側の資料状況の把握や収集に時間がかかっていることがあげられる。ウェールズ史の研究動向については、ノルマンディ史、そしてイングランド史の研究動向と合わせて重要であり、研究を進める必要があるが、当初の研究計画では近年の展開をそれほど意識していなかったため、実際に研究を進めていく段階で予定以上に時間がかかってしまい、やや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画より幅が広がったため作業は遅れているが、研究計画の全体の方向性について大きな変更は必要ないであろう。今後もできる限り史料や文献の収集は継続する予定である。一方、方向性は変更せずとも、計画の区切りをつけるために、明確な成果としてまとめられる部分と今後に残す部分とを具体的に整理していくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度春に渡欧しての調査を予定しその分を残していたが、結局渡欧調査ができなかったため、次年度使用額が生じた。また研究計画も大幅な変更ではないものの、継続して成果をまとめたいと考えたため、1年間の研究期間延長を申請した。 未使用分は、2019年度に渡欧調査と資料収集を実施して使用する予定である。渡欧調査は、オンラインで入手できない資料の収集と、研究者との面会(David Bates教授、Elisabeth van Houts教授ら)が目的である。また、研究成果の英語による公表準備のため、複数回にわたって修正等のやりとりを含め、十分に練って作成するため英文校閲費の使用も予定している。関連資料も継続して購入する。
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