研究課題/領域番号 |
15K02964
|
研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
坂本 優一郎 大阪経済大学, 経済学部, 准教授 (40335237)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 資本市場 / オランダ / 国債 / イギリス / 金融業者 |
研究実績の概要 |
「投資社会」は複数の政治体や異なる経済文化を抱合しつつ、一定の普遍性を帯びて拡大していく空間である。しかし、これまでの西ヨーロッパ長期資本市場像は、「均質な市場が国境を超えて国際的に拡大した」ものとして、とらえられてきた。本研究は、このような市場の単層的な理解を再検討することを目的とする。分析対象をロンドン市場に限定せず、オランダの各州に存在した複数の資本市場を視野に入れることにより、これらの市場それぞれが固有で多様性にとんだ市場であること、また、これらの市場が相互に重層的な関係を結ぶことにより、初めて十全に機能した点に着目する。近世の西欧に特有なこうした市場間の関係性を問うことで、オランダ人投資家・国際的に展開されるコスモポリタンな金融ネットワーク・英国政府といったアクターによる多様な市場の主体的な選択が可能になった実態や、政治的境界を超越した債券保有者・投資家層の拡大の前提条件が解き明かされることとなる。こうして、近世後期の固有な歴史的条件によって生成された重層的な市場の特性を定位することが可能となる。
平成27年度では、七年戦争初期にあたる1756年~1758年の史料調査を進めた。アムステルダム市文書館から取り寄せた史料にもとづき、アムステルダム市場における各種英国関連債券・株式の取引実態を調査した。具体的な対象となったのは、アムステルダムの公証人Daniel van den Brinkによる取引記録である。買い手・売り手、取引場所、取引目的(判明する場合のみ)、仲介代理人名(金融業者名)、取引銘柄、取引金額、保有期間のデータベース化にとりくんだ。初年度にあたり、明確な傾向を見いだせていないが、事前の想定を超える活発な取引がごくわずかな特定少数の金融業者の仲介によって行われていることが判明している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
公証人記録の分析は進捗しているものの、ベルギーで起こったテロ事件のため、予定していたオランダ・ロンドン出張が取りやめとなった影響による。
|
今後の研究の推進方策 |
オランダの債券取引動向については、今後ともアムステルダム市文書館より公証人記録の電子化の進捗状況にあわせて発注し、分析を続けていく。また、Global Financial Dataに、18世紀の証券取引にかかわる統計情報が収録されていることが判明したため、同データベースの導入に向けて交渉を開始している。同データベースの導入に成功すれば、超長期的な統計分析のなかに、近世における市場の重層性のもつ特異性を位置づけることが可能になると考えられるので、当初予定していなかった長期的な時間軸の導入についても検討する。取りやめとなった出張については、次年度に出張回数を増やすことによって、その遅れを取り戻す予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ベルギーで起こったテロ事件により、その隣国であるオランダで予定していた史料調査をやむをえず中止したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度に出張を延期することにより対処する。
|