研究課題/領域番号 |
15K02964
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
坂本 優一郎 大阪経済大学, 経済学部, 准教授 (40335237)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 証券投資 / 金融市場 / 政府公債 / 近世 / ジェンダー / アムステルダム / ロンドン |
研究実績の概要 |
本研究では、平成29年度でも平成28年度に引き続き、短期的なアプローチと中長期的なアプローチとを組み合わせた分析手法を採用した。1)短期的なアプローチとして、18世紀中頃に限定した特定期間における一般投資家の投資行動のミクロな分析、2)中長期的なアプローチとして、近世から現代にわたるヨーロッパ資本市場の機能を超長期的なスパンで評価する作業を同時並行的に進めた。まず、短期的なアプローチでは、平成28年度に用いたアムステルダム市文書館所蔵の公証人記録の分析を引き続き実施した。同文書は膨大な数にのぼるが、史料の電子化が逐次進められており、平成29年度では平成28年度に電子化作業中で利用できなかった史料を中心に分析を進めた。イギリス政府が発行した各種公債類および、イングランド銀行・東インド会社・南海会社などが発行した株式及び債券類の取引について、居住地・性別・金額・銘柄・(判明した場合)年齢の各項目にそくして、取引性向の差異や同質性の検出をすすめた。同時に、外国出張を利用して、イングランド銀行所蔵の取引記録史料を入手し、同時点における同一取引を、アムステルダム側からとロンドン側からの双方の視点から評価する作業を実施した。2)超長期的な視点からの評価については、平成28年度では主に19世紀の事例を検討したが、その内容を学術論文のかたちで公表した。それをうけて、平成29年度は20世紀初頭の事例について検討したうえで、学会報告を行った。同時に、平成28年度に検討したジェンダーと投資との関係について、グローバル化との関連に焦点を当てた論考を執筆し、平成30年度に共著の学術書籍というかたちで公表できる見込みである。また、平成29年度中に行った学会報告の内容についても、平成30年度中に学術雑誌に公表されることとなっている。以上のように、研究の進捗状況は順調であると評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトは、短期的な実証作業と超長期的な分析という、二つのアプローチからなりたっている。1)短期的な実証作業については、平成28年度には電子化作業の影響で着手できなかった公証人関係史料の分析を進めることができた。その結果、1750年代のアムステルダムを中心とする地域において、とくに性別および居住地による、投資行動の重要な差異を検出することができた。こうしたミクロな構造に注目する実証作業を通じて、本研究課題の仮説である18世紀中頃における重層的な市場構造の存在を実証できる見通しがついた。また、アムステルダム・ロンドンの双方向からのアプローチにより、いずれか一方を視座として採用することが多い先行研究の脆弱性についても補強できる見込みをえた。2)中長期的なアプローチとしては、平成27年度に導入したデータベースGlobal Financial Dataを用いて、各国の公債取引の動向を約300年間という長期にわたって数量的に追跡できた結果、マクロな歴史像をベースとしつつ、金融市場の歴史的構造の変遷を個別具体例の実証を通じて解明する作業を進めた。その結果、平成28年度に学会大会報告した19世紀の事例については、『ヴィクトリア朝文化研究』にジェンダーと投資との関連について焦点をあわせて、論考を公表できた。さらに平成29年度において、20世紀初頭の事例で検討できたこと、および18世紀から20世紀初頭にかけての超長期的な金融市場の変化を追跡できたことは、大きな成果と言える。さらに、この成果は、東北大学西洋史研究会大会にて口頭報告し、研究成果の一部として公表した。以上により、研究計画策定時の仮説が実証できる見通しがついたこと、および、研究成果の一部を公表できたことにより、研究はおおむね計画通りの進捗を見せたものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画最終年度にあたるため、残された課題に取り組むとともに、研究成果の公表を進める。1)残された課題については、平成29年度中に入手できなかった一部史料の入手と分析を進める。公証人記録を補強する史料が必要であるため、外国出張を実施し、現地での史料収集作業を進める。2)研究成果の公表については、平成30年の年内に学術書(共著)を刊行するとともに、学術雑誌『西洋史研究』への学術論文の掲載作業を進める。さらに、平成30年度年度中に20世紀イギリスの戦時公債取引に関わる学術書(単著)を公刊することで、研究成果の社会への還元を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
校務のため、予定されていた外国出張が不可能となったため。この出張については、平成30年度に資料の補強作業を目的として実施する予定である。
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