研究課題/領域番号 |
15K02965
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
林田 敏子 摂南大学, 外国語学部, 教授 (10340853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 西洋史 / イギリス史 / 大戦 / ジェンダー / 異性装 |
研究実績の概要 |
本研究は20世紀の二つの大戦を、戦間期を含む一連の社会変動ととらえることで、大戦がジェンダー構造に与えた影響を長期的視点からさぐることを目的としている。 本年度は両大戦の連続性と断絶性を明らかにするために、(1)二つの大戦を通して女性軍事組織を率いた女性指導者と、(2)戦間期(1930年代)に元軍人を名乗って男装し、偽誓罪で裁判にかけられた女性に関する事例研究を試みた。 (1)に関しては、第一次および第二次世界大戦中に陸軍の女性(補助)部隊の最高責任者を務めたヘレン・グウィン=ヴォーンを取り上げた。軍や政府関連の公文書だけでなく、日記や書簡といった私文書を含む網羅的な史料分析をおこなうことによって、二つの大戦が彼女のライフ・ヒストリーのなかでどのように位置づけられていたのかを探った。とくに二次大戦期に彼女が事実上、更迭されるまでの経緯を追うことで、二つの大戦期の「断絶(変化)」に迫った。 (2)に関しては、女性による軍服の着用が一種の異性装ととらえられた戦間期に、男装して女性との結婚を試みたことで偽誓罪に問われたヴァレリー・バーカーという女性に注目した。裁判記録や新聞のインタビュー記事をもとに、ヴァレリーが自らの経験をどう語り、社会がこれをどのように受けとめたのかを分析することで、戦争とジェンダー、あるいはセクシュアリティとの関係について考察した。 以上の研究成果を、「大戦・ファシズム・同性愛―戦間期における異性装の解釈学―」(志村真幸編『異端者たちのイギリス』共和国、2016年)、および「女が大戦を語るとき」(藤原辰史編『第一次世界大戦を考える』共和国、2016年)の2編にまとめ、公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、(1)両大戦の連続性と断絶性、(2)戦間期への着目という二つの観点から、両大戦期に女性軍事組織で責任者をつとめた女性幹部と、ジェンダー秩序を攪乱した女性異性装者に関する事例研究をおこなった。 当初予定していた軍隊内レズビアニズムに関しては、研究には着手したものの、予想以上に史料が膨大であったため、論文にまとめるには至らなかった。しかし、上記(1)(2)の二つのテーマに沿った研究成果をあげることができたため、研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、第二次世界大戦期に新たに生じた軍隊内レズビアニズムの問題に迫る。軍隊内の性、とりわけ同性愛については、当時の性科学者による専門的知見に基づくマニュアルや公文書がいくつか残されている。これを、軍事組織に入隊した女性の語りと比較しながら、軍隊内のセクシュアリティについて考察する。 また、戦間期研究もさらに深めていく。戦間期には、女性組織を率いた指導者や幹部だけでなく、一般隊員の手になる自伝や回想録も数多く出版されている。複数の博物館に所蔵されている未刊行の史料とあわせてこれらを分析することで、女性の語りの傾向や特徴を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張中の史料複写代を多く見積もっていたが、帝国戦争博物館(The Imperial War Museum)や空軍博物館(Royal Air Force Museum)の史料館で、デジタルカメラでの史料撮影が許可されたため、複写代を支出する必要がなくなった。また、購入を予定した専門図書の価格が全般的に低く、デジタル史料も増えたため、図書購入費用がおさえられた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は昨年度より多くの博物館や文書館での史料調査が必要なため、今年度より長い日程での海外出張を予定している。また、戦間期を考察する上で欠かせないファシズムをめぐる議論(とりわけ女性との関わり)や同性愛をめぐる動向など、より幅広いテーマの専門図書や史料もとりそろえる必要がある。
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