最終年度は、1930年代におけるポーランド・シオニズムの思想と行動を広い政治的・思想的文脈において解明しようとする本研究に必要な現地調査を行い、またそうした研究成果の一部を海外に向けて発信することができた。 まず、ポーランド学術高等教育省助成研究(課題名: Cohesion Building of Multi-ethnic Societies 10.C-21.C.)のワークショップ (於:ヴロツワフ大学)で研究発表を行い、またフロドノ国立大学 (ベラルーシ) が企画したベラルーシ民族運動に関する論集に戦間期のポーランド政府による少数民族政策を論じた英語の論文を寄稿し、さらに『リガ条約:交錯するポーランド国境』を上梓した。これらはいずれも、極めて多数のユダヤ人が居住していた戦間期ポーランドの東部諸県における民族関係を論じたものであり、ポーランド・シオニズムの特質を、ユダヤ人の視点からだけでなく他の少数派諸民族との関係性にも留意しながら明らかにすることを目的とする本研究ならではの研究成果と言える。 現地調査に関しては、ポーランドのワルシャワ、リトアニア、ラトヴィアにおいて史料調査を行った。ワルシャワではそれまでの系統的な史料調査を継続し、またリトアニアでは昨年に続いてユダヤ人関係およびベラルーシ民族運動関連の史料の入手に努めるとともに、ヴィルニュス以外にも戦間期ポーランドのユダヤ史とも関係の深い土地を訪ね、現地の専門家と意見の交換を行った。そして今回ラトヴィアも調査対象としたのは、ポーランド・シオニズムの特質をヨーロッパにおけるシオニズムの全般的動向の中で考察するに際して、しばしば国際場裡においてポーランドのシオニストとともに積極的な役割を演じたラトヴィアのシオニストについての情報が乏しく、それを補うために現地の専門家の助言を仰ぐためである。
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