日本列島と朝鮮半島でガラス小玉が急増する前1世紀から1世紀には、草原地帯と東シナ海を通じた海のシルクロードの二つのルートが活性化しており、これらの交易網がどのように関わっているのかが議論の対象となってきた。そこで、本研究では海外にて蛍光X線分析を行い、確実性の高い交易網の復元に努めた。 海のシルクロードに関しては、2016年度にベトナムで前3世紀頃から1世紀頃のガラス製品の理化学的分析を行ったので、今年度は草原地帯からのガラスを検討するため、モンゴルでガラス製品の理化学的分析を行った。分析の対象としたのは匈奴墓からの出土品であり、三角形垂飾や小玉の蛍光X線分析を試みた。その結果、ゴールドサンドウィッチグラスも含め、いずれもソーダガラスであり、植物灰ガラス、または植物灰ガラスとナトロンガラスの混合と推定される化学組成が示された。いずれも地中海周辺から西アジアで生産されたと考えうる「西のガラス」である。 一方、インドから東南アジアで生産された「南方のガラス」と考えられる典型的なインド・パシフィックビーズも確認された。数は少ないものの、それらはカリガラス製であった。日本列島や朝鮮半島では紀元1世紀頃から紺色または淡青色で透明感の高いインド・パシフィックビーズが大量に流通するが、今回調査した匈奴墓からは類似の色調をもつ事例は確認されなかった。ただし、日本列島でみられる紺色と無色の重層構造の連珠や、包み巻きで製作された植物灰ガラス製の褐色ガラス小玉と関連性がうかがえる資料は含まれており、注目される。また、匈奴と楽浪郡及び朝鮮半島南部で共通してゴールドサンドウィッチグラスが副葬されており、近年、その中間に位置する鮮卑の墓でも確認されている。以上のことを考慮すると、日本列島や朝鮮半島へのガラス交易は、海のシルクロードを主体としつつも、草原地帯を通じても行われていたといえよう。
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