研究課題/領域番号 |
15K02973
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
樋口 和美 (水本和美) 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (80610295)
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研究分担者 |
二宮 修治 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (30107718)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 考古学 / 文化財科学 / 陶磁器 / 肥前 / 近世 / 色絵(古九谷・祥瑞・プレ鍋島) / 上絵付の技術 / 分析 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、(1)肥前磁器の生産地(佐賀県)で現地調査を行い、①生産地側の研究者に研究内容の説明、②本研究への協力と分析資料の提供に関する依頼、③分析資料と調査内容の精査などを行った。このほか、(2)入手した資料に対する、自然科学分析の方針や方法の選定と試料の抽出の協議、一部について着手を行った。さらに(3)関連文献の調査を計画し対象範囲の選定に関して協議を行った。 (1)について平成27年度に現地調査を2回実施した。第1回調査(平成27年8月実施)では、佐賀県の大橋康二氏(九州陶磁文化館)、村上伸之氏(有田町教委)、船井向洋氏(伊万里市教委)、今泉今右衛門氏(今右衛門窯)、らと打合せ・研究相談を行い、研究内容に関する有益な意見交換を行った。ここから発展的に第2回調査(平成28年2月実施)で、特に、(A)有田町の中樽遺跡について胎土と釉薬に関する分析試料を得られた。さらに、(B)今右衛門窯でも顔料に関して分析試料を得られたため、現在は、分析方針を打合せし、平成28年度の作業を進めたい。 なお、現地調査での関係者間の相互理解促進のために、①代表者:水本和美が「1.研究目的と課題」「2.肥前の色絵磁器研究の現在」、②分担者:二宮修治「磁器の生産と流通に関する分析化学的視点からの調査・研究-生産地遺跡出土磁器片資料の識別・分類と消費地遺跡出土磁器片の生産地推定を例として-」、③協力者:新免歳靖(東京学芸大学・教育学部)「近世色絵磁器に用いられる色絵絵具の化学分析(仮題)」の4本のプレゼンテーションを準備した。この内容は今後の研究会の場などで公表し最終報告に反映させる。 平成27年度は、中樽遺跡などの新規試料が得られたことは大きな成果である。また、代表者が論文発表に向けて作成した、考古資料と美術品の成立過程に関する概念図では本研究における「失われた美術品」概念整理を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)第1回の現地調査で生産地の研究者との有益な意見交換を行うことができ、その後の分析試料の入手等の相談を含めて順調な滑り出しとなった。また、事前に用意したプレゼンテーションにより、関係者相互でも各自の研究手法の再確認を行うことができ、研究内容に即した試料の入手につながった。特に、中樽遺跡は、二宮修治の地球科学的な立場から、材料が胎土となる過程を視点に加えることで、胎土の生成過程を科学的に明らかにする方針を立てた。これまでの消費地遺跡出土資料の生産地同定という目的が主であった胎土分析に関して新しい視点を加えたい。17世紀の分析試料の入手が困難な状況において、18世紀-19世紀と17世紀を下るものの「江戸時代」の試料を、遺跡からの出土資料から、胎土となるに至る過程についての視点を加えた前例のほとんどない研究となる。 (2)27年度に得られた分析試料は、はじめにリストの作成と蛍光Ⅹ線分析を行った。その結果を受けて今後当初に行う方針を定める。 (3)代表者は(水本)有楽町一丁目遺跡に関して査読紙である『東洋陶磁』45号誌上で、17世紀の譜代大名のコレクション形成に関してまとめた。このことで、17世紀中葉に中国磁器と肥前磁器が交代していく過程の中で、代表者の研究を通じて明らかにしてきた将軍家に加え、これまで考古学的には明らかでなかった譜代大名家の近世のコレクション形成に新たな知見を加えた。堀内秀樹氏(東京大学・埋蔵文化財調査室)らが加賀藩などの貿易陶磁研究を通じて論じてきた知見とともに、17世紀の武家のコレクション形成についての流れを知ることができた。今後、江戸遺跡全般における古九谷様式の広がりやプレ鍋島などの状況の確認を含め、悉皆的な調査に入る準備は整った。なお、本格的な悉皆調査はこれからとなる。並行する中国磁器(祥瑞)に関して、杉谷香代子氏(戸栗美術館・アドバイザー)の協力を得る。
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今後の研究の推進方策 |
(1)中樽遺跡資料に関しては、蛍光Ⅹ線分析を終え、今後は、耐熱試験を行うことで胎土用の材料であるか、釉薬であるかなどの確認を行う方針である。こうした分析から、遺跡内で、材料がどのような動きをしているのかを検証する一助としたい。また、ほかに、平成28年度も平成27年度と同様に、胎土、顔料、釉薬などの素材に関する文献も含めた調査を並行して進めていく予定である。さらに、現地調査にあたり準備した二宮修治のプレゼンテーションは、文化財科学的にも意義が大きいため、これも合わせて研究会・報告資料に活かしたいと考えている。よって、平成27年度の関係者報告を今後研究会の場で公にしていくことも方針に加えたい。 (2) 平成29年度の復元に向けたテストピースの作成や、予備実験等も行っていく予定である。 (3)の文献調査は、平成28年2月実施の現地調査で行った研究報告でその見通しを立てた。江戸遺跡出土資料の悉皆的な調査は平成28年度に本格的に着手する。具体的には江戸遺跡で17世紀代の一括資料(明暦大火罹災遺跡・遺構を中心に)を抽出してその内容を把握する。その上で、分析試料を再度選定し、分析調査にフィードバックさせる方針である。 なお、中国磁器の調査に関しては、協力者として美術史研究者(杉谷香代子氏)を加えより充実した内容とする。特に祥瑞に関連しては、文献調査ともに、国内での伝世品や出土資料を実見することで、より、実物に即した調査結果につなげることとしたい。 上記の進捗と並行して、平成28年度も生産地での現地調査を行い、さらには、中国における17世紀肥前磁器と並行、あるいは前後する時期の調査を行う予定である。 このほか、昨年度重ねてきた関係者の勉強会に加えて、平成28年度は分析結果を受けての非公開という形ではあるが、研究会での研究者間の意見交換の場も設けることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
江戸遺跡の悉皆調査について平成27年度分として人件費・謝金を見積もったが、平成27年度は悉皆調査の対象(地域・報告書・時代)の絞り込みを代表者である水本が進めた後に入る計画で調査範囲の精査を進めているところまでで平成27年度を終了した。このため、平成28年度に本格的な調査を持ちこした。 文献調査は、発掘調査報告書の資料を評価する上では、肥前磁器と並行する時期の中国磁器の様相の把握が必要であるため、中国磁器の文献検索・精査も調査内容に加えることとした。ただし、中国陶磁についてはその範囲が極めて多彩であることから、資料調査については全般的な視野を持ちつつも、特に「祥瑞」について主として取り扱う方針を定めた。これは美術史研究者である杉谷香代子氏との協議を行い、杉谷氏の協力を得て今後考古資料以外の美術作品についての文献検索・作品調査を進めることとする。平成28年度の年初に着手予定とする。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度には、人件費・謝金を入れて、文献検索を開始する。これにあたり、画像スキャンも行うことを想定しているため、書籍の検索と可能であればその購入を合わせて行うこととする。国内外のカタログなども入手する予定であるほか、実見可能な資料については、美術館・博物館へ赴き実見(熟覧)調査を行う。平成27年度未執行のうち、人件費・謝金、文献調査に関する物品費などが平成28年度に執行予定である。 なお、関西方面への調査も平成27年度残額の中で執行予定であるが、平成29年度の復元を想定した、実験費用のうち、熱分析や分析関連の費用の確定を急ぎ行った上で、旅費にあてたい。 また、中国磁器の文献検索と国内資料調査のおおむねの終了後に、中国での現地調査も平成28年度計画に予定しているが、こちらについても杉谷香代子氏に協力いただくこととした。
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