2017年度はこれまでに継続してきた発掘調査の成果をまとめるとともに,出土遺物に関する報告書を作成した。また,調査において実施した放射性炭素年代測定,粒度分析,プラントオパール分析,花粉分析,樹種同定の成果を掲載して,古環境に関する報告も行なった。 発掘調査による出土品だけでなく,鳥取県立博物館に収蔵されている資料なども加えて検討した結果,直浪遺跡では縄文時代中期初頭以降,中期全般を通じて濃厚な人間活動があったことがわかった。また,この時点では,鳥取砂丘は大きく発達しておらず,飛砂が遺跡に到達することがあってもすぐに土壌化するような環境であることが窺われた。ところが,縄文時代後期以降徐々に砂の堆積が進み,後期末には一端人間活動が途絶えるまでに至った。ただし,この変化は1000年間の時間幅の中で起こっており,急激な環境変化ではないと考えられる。 縄文時代晩期から弥生時代前期の空白期をおいて,弥生時代中期中葉から間欠的にクロスナ層が形成されて人間活動が展開した。弥生時代中期中葉,後期後葉,古墳時代前期末から後期,奈良・平安から鎌倉時代の各時期に遺物,炭化物が集中し,その都度特徴的な活動があったと推測された。弥生時代中期,後期は限られた型式の土器しか出土しないことから,砂丘あるいは海浜部・潟湖縁辺という地形的特性を利用した活動と推定した。いっぽう,古墳時代にはクロスナ層が厚く発達し,人間活動も濃厚である。居住域に取り込まれ,プラントオパール・花粉分析からも耕作地としての利用が考えられた。考古学的な証拠は十分でないが,放牧地などとしての利用も検討すべきである。 耕作地や集落としての土地利用は鎌倉時代まで続くが,近世以降は拡大した砂丘に埋没してしまうと考えられる。以上の歴史を大きく5段階に分けて評価した。直浪遺跡は長期間の砂丘発達史と人間活動の関係を同時に追求しうる重要な遺跡と結論した。
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