研究課題/領域番号 |
15K02983
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石川 健 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 研究員 (40332837)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 縄文時代 / 葬送行為 / 遺体毀損 / 断体儀礼 / ジェンダー / 骨考古学 / 先史社会 / Deviant burial |
研究実績の概要 |
平成27年度は、房総半島における縄文時代中期および後期の遺跡出土人骨を用いて、遺体の特異な取り扱いの性格に関する研究を行った。特に、対象となる葬送行為において特異な取り扱いを受けた埋葬事例の抽出と、それらの出土遺跡における墓地分析を主に行った。 特異な取り扱いを行った埋葬事例については、サンプル中の遺体毀損事例およびその他の遺体の取り扱いにかかわる諸行為(頭位方向・埋葬姿勢・土器被覆等)の特異な事例を取り上げ、それらに関して1)人骨出土状況の精査、2)同一墓地出土人骨全体での上記諸属性の相関分析、3)墓地の空間分析を総合的に行った。 その結果、主たる頭位方向から逸脱する個体群については、生前の性別・ジェンダーを否定するような方位であることが明らかになった。また、逸脱した頭位方向は伏臥等の特異な埋葬姿勢をとる場合があることから、埋葬姿勢における特異な事例に関しても生前のアイデンティティの一部を否定するような意味を持つ遺体の取り扱いである可能性が明らかとなった。 遺体毀損事例についても頭位・埋葬姿勢などの他の遺体の取り扱いに関わる葬送行為においてノーマルなものではないことから、他の特異な埋葬事例と同様の性格を持つ点が明らかになった。合わせて、人骨の出土状況に関する骨考古学的・法医人類学的観点からの検討によって、今年度に対象とした遺体毀損例は死後間もない時期に遺体の一部を離断していることが明らかとなった。特に下肢の遺体棄損に対しては、死後の歩行機能の断絶などの性格があるものと推定した。 このような結果に基づき、今年度の分析対象とした遺跡出土の埋葬個体群にみられる特異な遺体の取り扱いの性格について、死者の生前のアイデンティティの一部であるジェンダーの否定や、物理的な歩行機能の阻止・断絶といった意味をもつ死者に対する再生阻止のための物理的対処、断体儀礼などであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って、縄文時代中期の房総半島を主たる対象時期・地域として、特異な埋葬事例の析出とその墓地内での総合的な分析を行うことがほぼできている。 また、調査に先立ち必要となる報告書や関連書籍の入手、および資料調査に必要となる機材の準備もほぼ計画通りに進めることができた。資料調査については、このような準備に基づき、今年度計画に沿って行うことができた。 資料調査、分析の結果に基づき、その成果をすでに論文の形で国内・外で発表するための作業も進んでいる。 以上のような理由で、おおむね今年度の研究は順調に進んでいるものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成27年度の調査・研究を継続しつつ縄文時代中期の房総半島の埋葬事例に関する研究を行う。さらに、縄文時代後期の房総半島および後期の中部地域に対象地域および対象時期を広げつつ研究を進める。特に資料調査をできる限り増やし、効率的に特異な取り扱いを受けた埋葬事例に関する情報収集を行う。 ただし、出土人骨の個体数が非常に多いことに一部は起因するが、特異な取り扱いを受けた埋葬事例が予想以上に多く、その解析に比較的多くの時間を要することが予想される。また、遺体棄損事例の抽出においては、遺跡での人骨出土状況の精査が重要な分析となるが、出土状況のみでは遺体の離断行為による人骨の乱れであるのかどうかその認定に困難を伴う事例も少なからず存在する。 そのため、死後受傷痕についての観察によって人骨出土状況に基づく所見を補足してゆく必要がある。来年度の資料調査においては、携帯用デジタル顕微鏡などを用いた人骨の受傷個所に関する観察を追加して行うことによって、資料調査の精度をより高めるとともに、効率的に出土人骨に関する調査を進める予定である。
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