当該年度はこれまでの東日本の資料調査に基づき埋葬遺体の取扱いに関する研究を行った。 1 縄文時代中期人骨を主たる対象に出土状況の精査を行い、埋葬姿勢の再検討を行った。その結果、これまで仰向けの仰臥埋葬とされている個体にはうつぶせの状態である伏臥埋葬が含まれていることが明らかとなった。伏臥による埋葬は少数事例であり、死者の取扱いとして通常の埋葬行為ではないため、遺体毀損等と同様に特異な遺体の取扱いに含めて考える必要がある。さらに、伏臥埋葬と埋葬頭位の方向との関係を分析した結果、遺跡によっては伏臥埋葬の個体は頭位方向もイレギュラーであった。これまで頭位方向の相違は出自集団等の社会集団の弁別に用いられる傾向があったが、上記のような成果は、むしろ特異な遺体の取扱いとそれを受ける被葬者の性格を考慮した埋葬行為の復元が必要であり、その上で葬送行為における多様な変異に基づく社会復元を行う必要がある点を明らかにした。この成果については既に論文の形で投稿している。 2 人骨出土状況の精査に加え、カットマークの有無を対象人骨について観察した。その結果、人骨出土状況から遺体の離断を推定した部位に非常に微細なカットマークが遺存するケースが明らかとなった。さらに、人骨出土状況からは特に異常のない場合にも、死後の遺体毀損に伴うカットマークが存在することが明らかとなった。これまで遺体に対する特異な取扱いの一つの代表例であった遺体毀損を伴う断体儀礼は人骨出土状況のみにより推定されてきたが、カットマークの観察を行うことで人骨出土状況から把握できなかった遺体毀損行為をより詳細に明らかにした。これらの成果は、当該年度の国際学会で発表しており、また現在論文投稿している状況である。 以上の研究成果に基づき、今後特異な取扱いを受けた被葬者の性格を明らかにしつつ、縄文時代の祖先観の問題について検討を行う予定である。
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