研究課題/領域番号 |
15K02988
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
河西 学 帝京大学, 文化財研究所, 講師 (60572948)
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研究分担者 |
松本 建速 東海大学, 文学部, 教授 (20408058)
中村 利廣 明治大学, 理工学部, 教授 (60062022)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 縄文土器 / 原料産地 / 混和 / 岩石鉱物組成 / 蛍光X線分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、採掘坑粘土、遺跡内粘土塊、貯蔵砂など土器原料に関連性の高い考古学情報を収集し、これらの遺物とともに同一遺跡内の同時期の出土土器を胎土分析し、岩石鉱物学的、化学的特徴とともに粒子の粒度組成や形状特性などを把握・比較することで、縄文時代の土器作りに関する資源利用を明らかにし、当時の人々の生業活動を解明するとともに胎土分析における産地の推定精度の向上を目指す研究である。 平成27年度の研究実績は以下の通りである。 ①新潟県十日町市笹山遺跡から出土した縄文中期の粘土塊と土器分析し、笹山遺跡報告書の刊行に合わせて薄片分析結果のみを報告した(河西2016)。土器の一部で泥質ブロックを多く含む土器が観察され、そのうち粘土鉱物が配向を示し外形が角張った泥質ブロックは混和材としての土器片の利用を示している可能性を示した。新潟地域の混和材としての土器片の利用は、色調の層状構造、土器特有の装飾や器面調整痕などを根拠に西田(2004,2005,2008)の報告があるが、薄片における胎土組織の特徴を手がかりにするとより精度の高い識別が期待される。 ②東京都三鷹市丸山B遺跡の阿玉台式土器胎土の薄片による岩石学的分析を行った。原料産地推定とともに泥質ブロックの混和について検討中である。 ③神奈川県横浜市称名寺貝塚、稲ケ原遺跡など縄文時代中期末~後期初頭の土器を肉眼観察し、原料産地を推定した。これらの土器は、堆積岩が主体であり、変質火山岩類、スコリア質玄武岩などを伴う特徴をもつ。このことから地元の原料を用いて作られた土器である可能性が高いと推定した(河西2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①新潟県十日町市笹山遺跡の粘土塊と土器の岩石鉱物分析結果の一部を報告した(河西2016)。同一試料で蛍光X線分析結果まで出ている。遺跡周辺の信濃川流域の河川堆積物20点の採取をした。②東京都三鷹市丸山B遺跡の縄文中期阿玉台Ⅱ~Ⅲ式・勝坂1b~2b式などを岩石鉱物分析し、原料産地推定とともに泥質ブロックの混和について検討中である。③横浜市称名寺貝塚・稲ケ原遺跡出土の縄文中期末~後期初頭北白川C式や称名寺式中津系土器は、西日本の土器型式と関連性の強いとされる。これら土器の原料産地推定のために、ルーペを用いた肉眼観察分析を行った。結果は、地元関東の資源を利用した可能性が推定され、横浜市歴史博物館のシンポジウム「称名寺貝塚と称名寺式土器」の要旨集に報告した(河西2016)。 ④山梨県北杜市酒呑場遺跡の住居跡出土の粘土塊について試料採取し、蛍光X線分析を行った。岩石鉱物分析は薄片作成中である。同住居跡出土土器の採取を希望したが、適当な試料が見いだせず断念した。⑤神奈川県相模原市大日野原遺跡内で出土したマサ状堆積物は、薄片まで作製してある。⑥埼玉県飯能市別所平遺跡で土器内貯蔵の粘土塊の出土情報を得て現地を調査し、今後の分析の協力を要請した。⑦東京都多摩ニュータウンNo.72の土器は、担当者の都合が合わず、未だ採取していない。 ⑧粒度分析については、当初画像解析ソフトウェアで実施しようとしたが、その解析結果が従来のポイントカウント法による粒度組成とデータの整合性が良好でないことから、従来のポイントカウント法での測定に切り替えることにした。平成27年度に購入したnikon偏光顕微鏡にメイジテクノ社製のポイントカウンタ付きメカニカルステージで測定を計画した。しかし、測定間隔が0.3~0.4mm程度の部品がないため、新規製作予定である。 ⑨採掘坑粘土、遺跡内粘土塊、貯蔵砂など情報収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
①新潟県十日町市笹山遺跡の粘土塊と土器の分析では、遺跡周辺の信濃川流域の堆積物の分析をすすめ、粘土塊・土器の原料産地を推定する。②東京都三鷹市丸山B遺跡では、蛍光X線分析が可能であれば実施し、原料産地推定と泥質ブロックの混和について検討していく。③横浜市称名寺貝塚・稲ケ原遺跡の分析では、西日本の土器型式の胎土との比較を試みる。比較資料として京都市北白川追分町遺跡の北白川C式土器を予定している。 ④山梨県北杜市酒呑場遺跡の粘土塊は、岩石鉱物分析をすすめる。同時期の土器の試料採取の可能性を模索する。⑤神奈川県相模原市大日野原遺跡内出土のマサ状堆積物の分析をすすめる。⑥埼玉県飯能市別所平遺跡で土器内貯蔵の粘土塊、同時期の土器片、周辺地質の試料採取を行い、分析をすすめる。⑦住居跡内から砂ブロックが出土した東京都多摩ニュータウンNo.72の329号住の土器は、担当者との日程調整を行い、試料採取をして分析にかかりたい。 ⑧粒度分析については、ポイントカウンタ付きメカニカルステージの部品を製作後、分析に移行する予定である。 ⑨採掘坑粘土、遺跡内粘土塊、貯蔵砂など情報収集を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
偏光顕微鏡の購入にあたり、NikonとOlympusのメーカの価格競争により予定価格よりも安く購入することができたこと。 粒度分析については、当初画像解析ソフトウェアで実施しようとしたが、その解析結果が従来のポイントカウント法による粒度組成とデータの整合性が良好でないことから、従来のポイントカウント法での測定に切り替えることにしたため、画像解析ソフトウェアを購入しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
偏光顕微鏡への付属装置であるメイジテクノ社製ポイントカウンタ付きメカニカルステージの測定間隔を最適化するための部品を新規製作や改修に支出予定である。 新たな研究分担者の市川慎太郎先生が福岡大学の蛍光X線分析装置を使用するにあたり、従来明治大学の装置で得られた分析結果と測定条件、分析元素数、分析値精度などが異なる可能性が否定できないが、できるだけ比較可能な実験データを得るための準備実験が必要となる。この準備実験用消耗品等に支出予定である。
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