平成29年度は、前年度に引き続き沖縄県西表島網取遺跡で検出された近世併行期廃棄土坑の発掘調査を実施し、マルタニシが検出される土層と遺構との関係の追求を進めた。その結果、土坑の最下層からもマルタニシの集積が検出された。放射性炭素年代測定を実施しところ、マルタニシは18世紀後半を上限とする値を示した。前年度までの調査結果を追証するものとなり、この年代以降におけるマルタニシの継続的な利用(定着)を確認できた。八重山地域における水田環境が発生させた二次的生態系の画期とみなしうる。 なお沖縄地域における他の近世併行期に属する遺跡からのマルタニシ出土例については、類例を検索したが、現時点では他の遺跡からの出土例は認められなかった。今後、水稲農耕がおこなわれたと推定される集落遺跡での発掘調査が必要である。併せて日本列島全域に検索範囲を広げているが、平成29年度中には検索の網にはかからなかった。水田環境に適応したマルタニシの採取と獲得が考古学的な側面からどこまで追求できるか、また地域間の差異の有無についても今後の課題として残される。 さらに廃棄土坑の存在そのものも沖縄地域では希有な事例であるため、遺構自体の性格を詰める試みをおこなった。しかしながら、本土坑の下底面についても単純な砂層であったため、クレーター状の窪みを設けて廃棄土坑にした可能性が高いと結論づけられた。今後は上記の諸課題に向き合うとともに、生物学的な観点からの把握へと研究の駒を進めたい。 最終年度である平成29年度は、上記の廃棄土坑とは別に水田域からも追加情報が入手できるか否かを点検する目的で、溜井周辺にも小規模な発掘調査を実施し、魚骨・マルタニシの遺存を追求した。しかし新たな遺存体の出土はなかった。土壌環境に左右されるテーマであることを痛感させられた次第である。
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