今年度前半は、サヌカイト原産地である奈良県二上山と香川県五色台一帯で採集したサヌカイト原石試料の整理作業を中心に行った。また、後期旧石器時代に近畿・瀬戸内地方で盛行した横剥ぎナイフ形石器(国府型)が主体的に出土した九州地方の船塚遺跡(佐賀平野)と赤木遺跡(延岡遺跡)の石器群を観察し、サヌカイト流通圏から離れた地域において、国府型ナイフ形石器の製作技術である瀬戸内技法がどのように変容したのかを検討した。いずれの遺跡も国府型ナイフ形石器が「集中的に」製作されている状況が確認され、技術的な変容が少ないことを確認した。 今年度後半は、これまでの研究活動をベースとした研究会を研究協力者とともに開催した。2017年10月14・15日に「先史時代における二上山産サヌカイトの利用と原産地の開発」をテーマに他の研究者にも参加をいただだき、二上山産サヌカイトの産状と旧石器~弥生時代におけるサヌカイト採掘址についての研究発表と討論を行った。さらに2018年3月10日には、「先史時代における香川県金山産サヌカイトの原産地開発-二上山産サヌカイトとの比較から-」をテーマに研究発表と討論を行った。討論では、旧石器時代の二上山産サヌカイト採掘坑は大型土坑や竪坑ではなく、崖面を利用した半露天掘りであったこと、縄文~弥生時代の採掘坑も斜面や最初に掘った土坑を横方向に掘り拡げていくもので、いずれもサヌカイト採掘に関わったのは小集団であった可能性が高いことが明らかとなった。一方、縄文時代以降に瀬戸内地方を中心に流通した香川県金山産サヌカイトは、採掘を伴わず斜面地に露出したサヌカイトを採取する方法が採用されていた。こうした状況は、信州産黒曜石の原産地遺跡やヨーロッパ・オーストラリアの石器石材原産地遺跡の事例でも認められており、先史時代の石器石材の採掘方法と管理集団には多くの共通性が認められることが推察された。
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