飛鳥時代の金属製品に関して、加工技術の調査を主眼として、飛鳥寺跡出土品、山田寺跡出土品、川原寺跡出土品、橿原市長法寺出土品、キトラ古墳出土品、石のカラト古墳出土品などを調査した。ルーペなどによる観察のほか、一部の3D計測、蛍光X線分析、鉛同位体比分析などを実施した。 その結果、金銀製品にはたとえば同じ飛鳥寺跡出土品でも金、銀それぞれに成分にバリエーションがあることがわかった。成果は諫早・田村と連名で「飛鳥寺塔心礎出土金・銀製品」として論考にまとめた。 また飛鳥寺跡の蛇行状鉄器は現在残欠だが、他の出土事例などと比較検討することで本来形状の推定復元を行った。それらの成果の詳細は「飛鳥寺塔心礎出土蛇行状鉄器の復元的研究」として論考にまとめた。 このほか、飛鳥寺跡出土の金銅製打出金具について、鍍金層の蛍光X線分析を行い、銅板を用いた製作実験を実施した。その結果としては実物と同じように鮮明に文様を打ち出すのはかなり難しいことがわかった。実物は半円形の工具によって半円形・円形の文様を、厚さ0.6mmほどの平らな銅板の表面に打ち出して施文しているが、工具で銅板に文様を打ち出すだけでは工具の打痕周辺がつられてへこむとともに、銅板自体の反りが生じるてゆがむため、実物のようにシャープに半円形の文様だけを打ち出すことができないことがわかった。実験では実物より薄い銅板を使用して表面から半文様周辺部を押し戻すなどの加工である程度実物に近づけうることも分かったが、厚手の銅板で打出金具を再現するための技術的課題の洗い出しができたことが有意義な成果である。 今年度は上記のような成果を得て、飛鳥時代の銅・鉄製品についての研究をすすめることができた。飛鳥寺関連の研究については「奈良飛鳥寺遺址出土文物調査新成果」として陝西省考古研究院での発表を行った。
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