研究課題
日本では長年にわたって地域包括ケアを推進してきた高知県梼原町を事例に,縁辺地域でありながら多様な地域包括ケアシステムが構築されてきた経緯から,ケアの地理的多様性の要因を考察した。梼原町では,住民同士が話し合って,3年任期の保健衛生推進員(現健康文化の里づくり推進員)が推薦され,講習会などに参加して病気の知識を蓄え,医療者と町民の間をつなぐ役割として、特定健診やがん検診への参加を住民に呼び掛ける活動などを行っている。しかし,人口減少の進展により,集落によって推進員を担当できる者が限定されるなど,推進員にかかる負担に地域差が生じている。また,NPO法人によって,周辺部(初瀬区,松原区)の要介護高齢者への移送,配送サービスが実施されているが,担い手の減少と高齢化によって,サービスの存続が危惧される。加えて,高知県本山町において地域包括ケアシステムや災害時の医療救護体制を調査した。後者に関して,高知県本山町では,公助の限界を自助や共助でカバーしようとしている。しかし,農村部においても田畑非所有世帯が多くなっており,広域流通に依存している状況がうかがえる。ヘリポートは中心部と周辺部に2カ所設置されている。ただし,道路が寸断されていればやはり孤立集落への陸送は困難である。民間企業5社と救援物資輸送の協定を結んでいるものの,輸送手段が確保できなければ画餅に終わる。主要道路(国道439号)の啓開は県主導で行われ,地元建設業者と協定も結んでいるが,沿岸部で甚大な被害があった場合,山間部への支援が後回しになるとの危機意識が役場にある。救援物資輸送計画の段階で,支援に地域格差の生ずるリスクが内在している。台湾では,複数地域の医療供給体制に関する予備調査によって,資料収集およびデータ分析を行った。また,事例地域を選定するとともに,現地調査の実施に向けた準備を進めた。
2: おおむね順調に進展している
国内の中山間地域である高知県の複数地域において,現地調査を実施したことによって,理論化に欠かせない基礎的データおよび定性的データを収集することができた。また,台湾では,事例地域の選定にあたって,事情に詳しい研究者と出身者の協力を得るとともに,現地調査を実施するめどがついた。以上の成果は次年度の現地調査に向けて不可欠な作業過程であり,交付申請書に記載した「研究の目的」をおおむね達成したと評価できる。
日本では,高知県本山町において調査を継続するとともに,高知県いの町吾北・本川地区において,在宅医療体制を中心に地域包括ケアシステムの実態調査を行う予定である。また,災害時の医療救護体制を構築するための課題も抽出していく。台湾では,緑島を対象に保健医療機関および現地住民に対する現地調査を通じて,情報技術を活用した医療供給体制の構築とそのプロセス,医療サービス利用の実態について明らかにする。そうして得られた研究成果は学会発表に加えて,学術雑誌に投稿する。
台湾における調査対象地域を選定するための予備調査について,複数地域で資料収集およびデータ分析を行ったが,本格的な現地調査が実施できなかったため。
台湾および日本において医療供給主体へのヒアリング調査のための渡航にかかる費用に充当する。台湾では被調査者へのヒアリングのための通訳およびコーディネート謝礼に充当する。また,研究成果の発表にかかる経費について,会場までの交通費および宿泊費,学会参加費に充当する。加えて,統計データや地誌に関する資料・書籍購入費が必要となる。
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E-journal GEO
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10.4157/ejgeo.11.526
地理学評論
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