島嶼によって自然条件と社会条件は大きく異なるため,多様な供給体制を示し,島嶼内のよりローカルなスケールにおいても需要と供給の様態は異なる。こうした地域による差異や格差は,国の社会保障政策(ナショナルスケール),島外の支援態勢(リージョナルスケール),島内の人口分布に規定されたサービスの地域差や,家族や地域住民によるインフォーマルサポートの入手可能性の地域差(ローカル・スケール)など多様なスケールにかかる要因が複雑に関係している。こうした要因をスケールの違いを意識しながら解釈するうえで,多層的ガバナンスの視点が有効であると考えらえる。そこで,本研究では,人口が小規模ながら,観光地化によって多くの観光客が訪れる台東県緑島郷に属する緑島を事例に,台湾島嶼部の医療・介護サービスがどのようにして展開してきたのか,多様な空間スケールにおいて島嶼部の地理的条件から検討するとともに,住民のサービス利用行動から現在のサービス供給体制の空間特性について考察した。医療・介護資源が不足する緑島では,出身医師による長年にわたる献身的な医療サービスの提供とともに,台湾本島の病院の支援を前提とした供給体制が構築された。ヘリ搬送の消極的姿勢や遠隔画像診断の低利用などナショナル・スケールの支援が必ずしも有効に作用しているとはいえない。島内では家族の支援や外国人労働力が在宅介護を支える一方,休業や家族の分断を伴った島外への受療行動が確認できた。
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