研究最終年度となる本年度は,ヨーロッパのバスク地方,アメリカ合衆国のボイジー,エルコ,ベーカーズフィールドで総括的な現地調査を実施した。 バスク地方における現地調査では,バスク州政府のディアスポラ政策関連部署に対して,集中的な聞き取り調査を実施し,行政当局が関与するヒト,情報,政策の移動の実態の解明を試みた。そこで明らかになったのは,ディアスポラ政策により推進されるヒトと資金のポストモダンな移動であり,その移動拠点として域外のバスクセンターが活用されていることである。バスクセンターは, 18世紀末から1930年代にかけて,特に南アメリカに移住したバスク地方のナショナリスト勢力が活動拠点とした歴史があり,後にバスク地方に登場したテロ組織ETAにつながる負のイメージをともなう。現在のバスク政府は,バスク地方と域外のバスクセンターにつきまとう負のイメージを払拭することに躍起であり,文化政策に重点を置いたディアスポラ政策を積極的に展開している。こうした経緯から持続されるポストモダンな移動の側面が明らかになった。 アメリカ合衆国のボイジーとベーカーズフィールドにおける現地調査は,過去の調査の補足的意味合いが強かった。それに対してエルコは初めての調査となり,そこで得られた知見は貴重であった。この調査からは,エルコのバスク系住民が極めて局所的な地理的空間に20世紀初頭にバスク人街を形成したこと,現在でもバスク系住民同士の強固なネットワークを維持していること,さらには移民出身地である故地のバスク地方の特定の集落と現在でもネットワークを維持していることなどが明らかになった。こうした傾向はボイジーやベーカーズフィールドでも観察されたが,これほど小規模な都市で局所的なローカリティが反映されるという現象は所見であった。これについては今後研究成果としてまとめるとともに,継続的に調査を継続する予定である。
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