研究課題/領域番号 |
15K03025
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
河原 典史 立命館大学, 文学部, 教授 (60278489)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カナダ / 日本人移民 / 二世 / 写真帖 / 日本庭園 / 大陸日報 |
研究実績の概要 |
2016年度では、日本の特定地域からの契約移民の輩出構造を把握した。事例となる契約移民輩出県をとりあげ、カナダ渡航後における彼らの組織化について、2つの事例から考察した。 第一に、カナダ西岸のフレーザー河口南岸のブランスウィック・キャナリーに従事した鹿児島県出身者を事例とし、サケ缶詰産業における日本人移民の構造を紹介した。このキャナリーの日本人は、薩摩半島南部の出身者がほとんどを占めていた。彼らのなかには、1907年に東京移民合資会社による契約移民として渡航した鉄道保線工として契約期間を終えた者もいた。その後、彼らはサケ缶詰産業に従事するためBC沿岸部に移動することが多かった。しかし、先住の和歌山県出身者の多いスティーブストンのキャナリーに雇用されることは困難で、他の地域の新しくて規模の小さいキャナリーに雇われたのである。そのなかにあって、1905年に「商業視察」「研学」を目的として渡加した鹿児島県指宿出身の髙﨑幸助・幸男親子は、先住者として英語が理解できるため、キャナリーから動力船を賃貸され、日本人漁業が漁獲したサケを収集してキャナリーへ運搬していた。つまり、英語を理解できる先住者は、キャナリーにおける日本人漁業者のリーダーとなることが多いのである。 次に、東宮殿下(後の昭和天皇)の渡欧を記念して1921年にカナダ・バンクーバーで発刊された『金田之栄-東宮殿下御渡欧記念・邦人児童写真帖-』について考察・復刻した。日本への訪問団の設立に合わせて、この写真帖の発刊が計画された。渋沢栄一、添田寿一や阪谷芳郎の題辞・序文を収めたこの写真帖は、カナダ日本人移民の今後の発展を期待する企画だった。『写真帖』の復刻では、解題だけでなく、収められた259家族・545人について氏名・父親の名前・出身地などのデータベースを添えた。また、東京移民合資会社による熊本県移民者の手記も収録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1:アメリカとかかわるカナダへの契約移民会社の成立、2:日本における特定地域からの契約移民の輩出構造、3:カナダにおける契約移民の組織化、4: 契約期間の終了後の転業や地域的拡散、の4点について実証的に解明することを到達目標とする。限られた期間において目的を達成するため、これまで等閑視されてきた東京移民合資会社をとりあげ、同社から多くの契約移民を輩出した宮城・栃木・神奈川・静岡・福井・福岡・熊本・鹿児島・沖縄県出身者の展開を把握する。 そのうち、2015年度では福井県を中心とする鉄道契約移民について考察した。そして、2016年度には、鹿児島県からの契約移民がサケ缶詰産業に転業していく事例を説明した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで継続してきた日本の特定地域からの契約移民の輩出構造を把握する。外交史料館所蔵の「明治四十年移民取扱人を経由セル海外渡航者名」には、東京移民合資会社による約1,500 名のカナダ契約移民が網羅されている。すでに入手している名簿を概観すると、彼らは宮城・栃木・神奈川・静岡・福井・岡山・福岡・熊本・鹿児島・沖縄県の10 県に限定され、全国的に展開するカナダ自由移民とは異なる契約移民の輩出地域が明らかにされる。ただし、出身地については県レベルまでの記載にとどまるため、同館所蔵の「海外旅券下附表」を精査し、市町村単位まで確認する必要が生じる。これらの資料には渡加目的が記されているため、炭鉱契約移民と鉄道契約移民との差異が見いだせる。つまり、特定の業種への就業種の違いを意図した契約移民の輩出構造に関わる地域性が見いだせるに違いない。 とりわけ、2017年度には、新しく発見した熊本県からの契約移民の資料を整理し、バンクーバー島カンバーランドへの入植、廃鉱後の移動・転業、ならびに2世の活動について考察する。
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