本研究は,インド地方都市(非大都市圏に位置する都市)におけるICTサービス産業の成長メカニズムを,特に中小の地場企業やその経営者(起業家)に焦点をあてて考察することを目的とするものである。平成30年度は最終年度であり,補完的な現地調査を行うとともに,全国的な視点から統計データを用いた分析を進め,それらの成果のとりまとめに取り組んだ。 前年度までの現地調査によって,大手ICTサービス企業の地方都市への立地展開が当該都市の労働力のプールを涵養し,それが中小の地場企業の成長と結びつく仕組みがあることを見出せた。ただし,地方都市で事業資金や長期の経験を有する技術者を確保することは難しく,これが大都市との技術水準の格差要因となっていることが示唆された。これらの点を捕捉する材料を得ることを念頭に,デリーおよびバンガロールで現地調査を行った。デリーでは大手BPO企業を訪問し,当該企業の立地過程や現地での事業内容についてインタビュー調査を行った。バンガロールでは,ベンチャー・キャピタリストに対して起業家の行動やスタートアップ企業への投資の現状についてインタビュー調査を行うとともに,インキュベーション施設を訪問しスタートアップ企業を取り巻く状況の把握に努めた。この他,インド国勢調査を用いて主成分分析を行い就業機会の地区類型を見出すとともに,労働力のプールと当該産業立地との関係について検討を加えた。 こうした成果を,論文や図書の一部としてとりまとめるとともに,日本ベンチャー学会および日本地理学会で各々報告した。前者は大都市との関係を念頭に,「スタートアップ・エコ・システム」が地方都市で立ち上がっていく過程を注視するものであり,後者は中小企業のビジネスモデルと取引先に着目し,その成長の限界を指摘するものであった。この他,統計分析の成果の一部を国際学会にて報告しフィードバックを得た。
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