本研究は、産業集積地における企業の技術開発のための組織間学習の形成要因について明らかにすることを目的としている。本年度は、研究対象地域を北陸地域とオランダのアイントホーフェン市に拡大し、研究結果を取りまとめた。第1は、北陸地域における炭素繊維複合材の開発の実態について調査した。繊維工業の産業集積地として発展してきた産地が、炭素繊維という新しい技術を導入するにあたっての産地における組織間学習のメカニズムとプロセスについて調査分析した。福井県においては公設試が、石川県においては大学が中心となって新技術の導入が図られており、県によって学習体制が異なっていた。その取組みは繊維産業クラスターの高付加価値化が目的であったが、将来的には自動車や航空機部品のサプライチェーンの一部として従属的な産地となる可能性もあることが指摘できる。そこでの議論を踏まえ、研究結果をまとめた論文を日本地理学会の査読誌に投稿し、受理、公表された。同時に、研究成果を現地に還元するために、金沢工業大学のものづくり研究所特別講演会にて講演を行った。第2は、オランダのアイントホーフェン市における産業集積と地域の変容についての研究結果をまとめた。本研究では、企業側からではなく、地域側からの視点にたち、地域の変容と学習との関係について考察した。その結果、同地は元々は電機産業の大手企業の企業城下町であったが、企業戦略の転換により都市構造もオープンイノベーションの取組みに適した制度的環境を築いていった。大手企業の取組みは企業資源を提供するという点において寛容なアプローチであるが、知識創造を図るうえでのエコシステムを自社内に取り込むというあくまでも利己的な企業戦略であると言える。本研究結果は、中四国都市学会・愛媛地理学会の合同学術大会にて公表することができた。
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