研究課題/領域番号 |
15K03032
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邊 日日 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60345064)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 民族学 / 思想史 / シベリア / 地方主義 / 歴史 |
研究実績の概要 |
今年度の最大の目標は、夏期の文献調査であった。2016年8月23日から9月11日まで20日間のロシア連邦での調査の目的は、(a)シベリア史および民族学に関する最新の研究動向の知見を得、公刊物を入手すること、および(b)シベリア地方主義に関する、日本では入手不可能な研究文献(とくに地方都市で少部数のみ発刊されているもの)を出来るだけ体系的に収集することである。モスクワでは主に(a)の作業、オムスク、ノヴォシビルスク、トムスクでは主に(b)の作業に当たり、両者において当初の予想以上の進展があった。トムスク大学の文化人類学講座、学術図書館では特に作業が進み、「手稿・書籍記念物係」ではシベリア地方主義者の未公刊の書簡類を閲覧、複写することができた。また同市では、トムスク州国立文書館(Государственный архив Томской области[ГАТО])も訪れ、関連未公刊文書(例えばP-72[シベリア地方ドゥーマ関連])を閲覧することもできた。 一年を通じては、思想史的考察と人類学的営為とが交差する議論の領域の可能性についてシベリアを枠組として考察を進める一方、インターネットで注文できる範囲で資料収集をつとめた。シベリア地方主義を育んだ知的先駆者の一人、スロフツォーフについて調査し、主著『シベリア歴史概観』での記述の特徴を、とくにシベリアをどのような観点で独特の単位としたかの観点から解析した。 これまでの研究を踏まえ、先行研究の全体像と最新の課題について、日本シベリア学会(2016年11月20日、於 千葉大学)にて口頭発表(「シベリア地方主義の研究状況について」)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
日本にいるときもインターネットなどで注意深く調査していたつもりではあったが、現地で研究者と直接あい、打ち合わせや議論をし、最新の研究成果について教示してくれることの効率性を今回改めて認識した。当初その存在を知らなかった研究文献を入手できたことの意義は言うまでもないだろう。とくに、本テーマの脈絡でも、事実史・出来事史ではない歴史叙述の可能性(観念の歴史、精神史など)が現地でも模索され、思想の運動としての思想史・民族学が立論されていることを知り得たのは望外の成果とも言える。 また、上記の口頭発表の質疑応答で、シベリア地方主義の最大重要文献と評しても良いヤードリンツェフ『植民地としてのシベリア』に、戦前に訳されたと言われる日本語訳草稿が千葉大学図書館に保存されているという情報を得たのも大きな収穫であった。可能であれば、日本の精神史の一軌跡でもあるゆえ復刊の可能性を探ってみたい。 また今年度は、本プロジェクトの成果(単著)の全体像を考察できた。世界的に見ても、現在必要とされているシベリア地方主義研究は、その全体像を広範囲に示すことであり、まだまだその個別論点の単一争点的研究の段階ではないということを再認識した。
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今後の研究の推進方策 |
スロフツォーフ、シチャーポフ、ヤードリンツェフ、ポターニン、シャシュコフの著作に立脚し、シベリアの地位向上を求めた文化・社会運動が、シベリア民族学の発展とどう絡み、車の両輪の如く進んでいったのか、その際、どのような諸論点を言説のなかに配置していったのかを見る研究を継続する。地方主義者が残した資料は絶望的なくらい膨大であり、取捨選択をはかりながら、彼らの思想と行動の全体像、およびその可能性を描ききる単著を準備していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
数万円の差額であれば、次年度に持ち越しても問題はないだろうと判断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は最終年度であり、当初予定していなかったが、ロシアで文献調査を追加で行う(2週間ほど、主にノヴォシビルスクとトムスクにおいて)。書簡や文書など未公刊資料の閲覧と複写が主な課題となる。さらに、国内出張(北海道大学、千葉大学)も予定している。
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