引き続き文献収集にあたった。購入以外では、北海道大学図書館にて文献複写を行った。特に、カザフスタンで出版された3巻本のポターニン選集を閲覧したことは、ロシアとは異なる視点で編まれていることもあり、大きな収穫であった。また、ギブソン文庫に収められている、ソヴィエト時代の重要な研究であるセシューニナの『ポターニンとヤードリンツェフ』を複写できた。資料収集の意味でさらに進捗を得たのは、ヤードリンツェフの主著『植民地としてのシベリア』の日本語訳を入手できたことである。太平洋戦争中、邦訳がなされたということは耳にしていたが、千葉大学に草稿が保管されていることが判明し、スキャンすることが出来たのである。訳者は、1943年にシチェグロフの『シベリア年代史』を訳出・出版した吉村柳里氏である。第二版を元に、ほぼ完全な形で全訳されている。いずれ「共訳」として世に出すことを考えている。 研究の総括としては近い将来に一冊のモノグラフを構想している。シベリア地方主義の誕生から解体までの70年を、民族学の軌跡や革命思想の展開と関連づけながらその全体像を描くことになろう。最も近い段階で刊行される研究成果は、「シベリア地方主義と女性問題」(仮題)と題した論文である(2018年秋に勉誠出版より〈アジア遊学〉のシベリア特集の一章として)。1850年代、帝政ロシアの言説空間で開花し、ロシアにおける女性解放運動の源流となった「女性問題(the Woman Question;Женский вопрос)」論で、従来の研究では重視されていないが、重要な役割を果たしたのが地方主義者のセラフィム・S・シャシュコフであった。彼の立論において、ロシアとシベリアとの関係の矛盾が地方主義者によって指摘されつつも解消されず、言説上の限界の突破が不可能という特徴を明らかにした。
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