研究課題/領域番号 |
15K03034
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
河合 香吏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (50293585)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人類学 / 生態環境(身の回り世界) / 知覚 / 五感の共鳴 / チャムス / ドドス / 進化的基礎 / 文化・社会的構築 |
研究実績の概要 |
人類学において「人間とその周囲にある生態環境(本研究課題ではこれを「身の回り世界」と呼ぶ)との関わりあい」というテーマには膨大な研究蓄積がある。そうした中で、本研究課題は、東アフリカ牧畜民が「個」のレヴェルにおいて五感の統合作用を通じて感得した「身の回り世界」に在るさまざまな事物や事象をいかなる回路によって他者と共有しているのかについて、人類学的な視点・方法から解明することを目的としている。五感の諸機能とその統合性は人類の自然的、すなわち進化的基礎であると同時に文化・社会的構築でもあり、同じ五感を備えた身体的他者と社会的交渉をおこなうための基盤となる。一方、五感を構成する個々の知覚間には、他者と知覚内容を共有する際の共同性のあり方に差異があると予測される。こうしたことから、個体間に生じる「五感の共鳴」という身体的・社会的現象に着目して、牧畜民が他者と共有する環境の包括的全体像を、諸知覚の共同性の成立機序とその差異性の二側面から描出するためには、複数の牧畜社会において現地調査をおこない、比較検討することが有効な研究手法となる。 上記の理由から、昨年度(平成27年度)は、本来であれば、ケニアの牧畜民チャムスを対象とする現地調査を3カ月程度実施する予定であった。だが、2014年(平成26年)におこなったウガンダの牧畜民ドドスにおける現地調査の際にA型肝炎に罹患し、帰国後に入院、治療をしたが、肝炎自体は治癒したものの、体重の大幅減等、体調はいまだ万全には回復せず、体力的に極めて過酷な乾燥地での東アフリカ牧畜民の現地調査は困難であると判断し、その実施を断念した。年度の前半は国内の諸研究機関における調査研究も体力的な理由からできなかったために文献研究に専念したが、年度の後半には生態人類学会に参加した機会等を用いて東アフリカの自然生態環境とその認知・認識等に関する調査研究をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記、「研究実績の概要」でも触れたように、昨年度(平成27年度)は本来であれば、ケニアの牧畜民チャムスを対象とする3カ月程度の現地調査を実施する計画であった。しかしながら、上記のように身体的、体力的な理由から、東アフリカ牧畜民の住むアプローチが困難な乾燥地という過酷な環境での現地調査の実施は断念せざるを得なかった。また国内の諸研究機関における調査研究も前半期は、同じ理由から万全にはおこなえなかったため文献研究を中心におこなうにとどまった。後半期には次第に体力も回復傾向を見せたため、東アフリカの自然生態環境とその認知・認識等に関する知見や知識を持つ研究者から情報・資料を収集するといった調査研究をおこなったが、これらの調査研究で得られた情報・資料の整理、分析は、調査時期が年度の後半、特に年度末に集中したため、十分におこなうための時間的な余裕がなかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度(平成27年度)に予定していたケニアの牧畜民チャムスの現地調査をおこなうことができなかったため、本年度(平成28年度)は、この遅れを補ってゆくために、身体的・体力的な状態を勘案しながら、これに見合った期間(1カ月~3カ月程度)、チャムスの調査を実施する。ただし、現在、チャムスの分布域では、家畜の略奪を伴う隣接牧畜民族集団からの攻撃が頻発しているとの情報があり、その状況次第では現地調査が不可能になる可能性もある。その際には、本研究課題におけるもうひとつの現地調査対象であるウガンダの牧畜民ドドスに調査対象を変更するなど、臨機応変に対応する。昨年度(平成27年度)から始まった本研究課題は当初の計画(交付申請段階)では、本年度(平成28年度)はドドスの現地調査を実施することになっていたため、体力と状況が許せば、チャムスとドドスの両方での調査の実施もありうると考える。 現地調査では、知覚という非言語的な経験を多分に含む、言語表現を媒介にしてそれを明示することが難しい対象にアプローチすることになるが、その際、インタビューやヒヤリングによって言説データを重点的に収集する手法には限界がある。こうした条件に対し、もうひとつの人類学の方法である参与観察に重点をおき、徹底的に人びとと行動をともにして彼らと「身の回り世界」の経験を共有することを根拠に、知覚のありように迫りたい。アプローチがより困難な「五感の共鳴」、すなわち人びとの間で知覚の経験が共同性を獲得してゆく局面を把握するためには、調査対象の単位は個体ではなく人びとの「集まり」であることが望ましい。そのために、日常生活や生業活動の場のみならず、儀礼や饗宴の場など、より多くの人びとが集まる場に積極的に参加し、その一部始終を詳細に観察、記録し、とりわけ知覚に関連する発話や行為を克明に記録し、知覚が共有化される過程を辿る。
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次年度使用額が生じた理由 |
先に「研究実績の概要」でも記したように、昨年度(平成27年度)は、本来であれば、ケニアの牧畜民チャムスを対象とする現地調査を3カ月程度実施する予定であった。だが、2014年におこなったウガンダの牧畜民ドドスにおける現地調査の際にA型肝炎に罹患し、帰国後に入院、治療をしたが、肝炎自体は治癒したものの、体重の大幅減等、体調はいまだ万全には回復せず、体力的に極めて過酷な乾燥地での東アフリカ牧畜民の現地調査は困難であると判断し、その実施を断念した。本研究課題の計画当初(交付申請時)には、体力の回復を待って、年度の後半に現地調査に出ることを目指し、ケニア行きの旅費として経費を温存していたのだが、最終的には、上記の通り、現地調査を断念したため、その分が次年度使用額として生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度(平成28年度)は、身体的・体力的な状態を勘案しながら、これに見合った期間(1カ月~3カ月程度)、チャムスの調査を実施する。次年度使用額は主としてこの現地調査のための旅費やその他の経費(レンタカー代や現地における調査助手の人件費、調査協力者への謝金など)として使用する計画である。ただし、現在、チャムスの分布域では、家畜の略奪を伴う隣接牧畜民族集団からの攻撃が頻発しているとの情報があり、状況次第では現地調査が不可能になる可能性もある。その際には、本研究課題におけるもうひとつの現地調査対象であるウガンダの牧畜民ドドスに調査対象を変更するなど、臨機応変に対応する。昨年度(平成27年度)から始まった本研究課題は、当初の計画(交付申請段階)では、本年度(平成28年度)はドドスの現地調査を実施することになっていたため、体力と状況が許せば、チャムスとドドスの両方で調査を実施することもありうる。
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