研究課題/領域番号 |
15K03036
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
大野 旭 (楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ウイグル人 / 民族運動 / 文化大革命 / テロ活動 / 民族政策 / 宗教政策 / 中央アジア / ソ連 |
研究実績の概要 |
本年度は当初からの計画通りに新疆ウイグル自治区に住むウイグル人が経験した中国文化大革命に関する調査を実施した。 ①まず、台湾の国立政治大学と国史館において中華人民共和国建国後の対新疆政策についての文献資料を収集し、分析を行った。また、台湾に実質上亡命しているウイグル人にインタビューを実施し、中央研究院の研究者たちとも研究情報を交換した。さらに、中国大陸や香港における新疆研究の進行についての情報を集めた。 ②次に、上で収集した資料などをもとに、2016年2月27日に「中国文化大革命と国際社会―50年後の省察」と題する国際シンポジウムを開催した。シンポジウムにおいて、「なぜいま、中国文化大革命と世界との関係について考えるのか」とのタイトルで発表をした。調査と研究の結果、中国政府は新疆におけるいわゆる分離独立運動や「テロ活動」をすべて1960年代の文化大革命期に発生した抵抗運動と結びつけている事実が判明した。以前に中国で公開された新疆の文化大革命に関する研究ではウイグル人はほとんど登場しなかったのに対し、今や完全にウイグル人の抵抗運動を別の角度から再解釈するように変わった背景には同国をめぐる政治情勢の変化があると指摘できよう。 ③第三、文化大革命期間中のウイグル人の動向はすべて旧ソ連の対中央アジア政策と連動していたが、現在の中国における再解釈でもロシアや中央アジア諸国を意識した分析が多い。これは、文化大革命期から未解決のまま今日に至った中国の民族問題の複雑さを物語っている。 ④最後に、新疆の動静と文化大革命との関係について、新聞と雑誌などで積極的に情報発信を行ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおむね順調に進んでいる。ただし、当初は夏に新疆ウイグル自治区に赴いて現地調査を実施する予定であったが、北京まで行ったところで、いわゆる「テロ」発生の可能性と中国政府による弾圧の強化による政情不安定が日本大使館から指摘された。そして、新疆への渡航も自粛するよう伝えられた。そのため、急きょ、調査地を台湾に変更し、台北その他の地域で文献資料に当たり、当事者にインタビューした。また、研究代表者は以前から新疆ウイグル自治区に関する資料を集めており、過去に現地調査を実施した際にも文化大革命運動に関する第一次資料を収集していたので、それらの情報を現在の視点で分析し、研究を推進するのには有効であった。
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今後の研究の推進方策 |
新疆ウイグル自治区は「中国のパレスチナになりうる」と学識者たちにかねてから指摘されるぐらい緊迫している。そのうえで、2016年には文化大革命発動50周年という節目の年を迎えるために、緊張の度合いはさらに高まる可能性がある。新疆ウイグル自治区の文化大革命に関する研究の推進はそのまま現在の中国における民族政策の分析にもつながるので、ひきつづき文献と口頭の双方の資料を集めて探究を行いたい。
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備考 |
静岡大学付属図書館にてリポジトリにて公開している以外、同人文社会科学部・アジア研究センターでも情報公開中
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