研究課題/領域番号 |
15K03036
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
大野 旭 (楊海英) 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (40278651)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 文化大革命 / 朝鮮族 / 延辺 / 民族問題 / 北朝鮮 / 韓国 / 中ソ対立 / 中朝関係 |
研究実績の概要 |
平成28年度は当初の計画通りに研究を進めることができた。まず、春から朝鮮族の文化大革命に関する文献研究を推進し、八月には韓国で調査を実施した。中国東北の延辺朝鮮族自治州から韓国に移住した朝鮮族の知識人たちにソウルで会い、インタビューを行った。調査の結果、朝鮮族地域においても、文革はまず朝鮮人知識人の粛清から始まり、漢族が進出先の権力を握っていくというプロセスをたどっとことが確認できた。延辺自治州に住む朝鮮人知識人は親朝鮮民主主義人民共和国だろうと、親韓国だろうと、地方民族主義者や「朝鮮のスパイ」、「日本のスパイ」などとして打倒され、代わりに漢族が地元の権力を奪った。朝鮮族を排除し、漢族中心の権力体制を構築したのは、毛沢東の甥、毛遠新であり、彼は北京からの指示で動いていた、との証言も得ることができた。延辺自治州とは国境を挟んで隣接する朝鮮民主主義人民共和国も当然、中国の文革の影響を受け、両国は互いを「修正主義国家」だと非難し合うことにまで発展する。中朝両国の対立はさらに中ソ対立とも連動し、国際共産主義陣営内部でのイデオロギー論争にまで発展する。延辺自治州は日本統治時代から教育レベルが高く、経済的にも豊かな地であった。そのため、漢族から羨望の目で見られ、進出して独自の生活基盤を作ろうとしていた。中国政府は朝鮮人地域で文革を推進することで、一般の漢人農民の進出と定住化、さらには権力の奪取までを政治的に支援した。その結果、もともと良好だった朝鮮人と漢族の民族間関係も損なわれ、逆に民族間の対立と衝突が増えた。これが、文革の後遺症である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年に西北の新疆ウイグル自治区の文化大革命に関する研究を完成させたのにつづき、平成28年度には東北の朝鮮族自治州での同運動の展開に関する情報を収集することができた。夏には韓国のソウルで調査をおこない、秋には「中国文化大革命研究の新資料・新方法・新知見-50周年からの再スタート」と題する国際シンポジウムを学習院女子大学と合同で開催した。シンポジウムではアメリカと台湾、中国からの参加者たちが研究情報を交換し、今後の研究の推進方法についても意見を交わした。また、文化大革命に関する著書『モンゴル人の民族自決と「対日協力」』と編著書『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』を一冊ずつ公刊し(ともに集広舎)、各界から評価された。平成28年は文革発動50周年という節目の年にあたることから、新聞や雑誌、それにテレビなどのマスメディアの関心も高く、諸種の取材に応じただけでなく、『思想』や『中央公論』、『週刊東洋経済』などのような論壇誌にも寄稿した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は視点を中国南部に転じて調査研究を実施する方針である。具体的には広西チワン族自治区で推進された文革の実態解明に着手する。同自治区では食人行為が革命的な行動として長期間にわたって横行し、犠牲者数も内モンゴル自治区に並ぶほど多い。中国で最大規模の犠牲者が出た同自治区の文革の実態を究明することにより、虐殺が発生した原因を現場から、社会の底辺から探る。近年、欧米の研究者たちも同自治区の文革運動に注目しており、関連の第一次資料や研究成果も多数、公開されている。その為、欧米の研究者たちとも情報交換をし、文革研究のネットワークを一層構築する予定である。
|