遠洋漁業は、トランスナショナルなアクターのせめぎあうグローバル化した状況のなかにおかれている。本研究では、日本の遠洋漁業の直面する危機的状況について、グローバリゼーションとの直接的関連において捉えることを目指す。 前年度のキリバスの首都タラワおよび鹿児島県山川漁港等の訪問に引き続いて、今年度は、主に国内の遠洋漁港における実地調査を行った。また、海外での漁業援助業務を経験した関係者等を訪問して、聞取り調査を行った。まず、漁業会社およびOFCFに勤務し、南米やオセアニア等、海外での漁業関連事業に長期間携わってきた技術者から、1970年代以降の遠洋漁業状況や具体的経験について聞取りを行った。 また、宮城県石巻市では、震災後に新たに建設された大規模な漁港を視察したほか、インドネシア人とキリバス人を雇用している漁業会社を訪問した。静岡県焼津漁港では、外国人出稼ぎ漁船員の雇用状況やトラブル等に関する聞取りのほか、遠洋漁業会社が倒産した余波について情報を得た。飲酒したキリバス人が喧嘩の末に、停泊中の船から海中に転落・死亡した事故について、関係者から経緯を聞いた。加えて、漁業研修生を海外から初めて受け入れたという宮崎県南郷町では、漁港と関わりの深い神社が信仰を集めていることを確認した。 実地調査を通じて、国際的な資源争いや、関係諸国の内外に渦巻く政治経済情勢が絡み合う、遠洋漁業の複雑な様相の一端を把握することができた。一方、漁業の現場では、文化的差異を背景とした、さまざまなトラブルが頻発している事例を収集することができた。文化的他者間では、高度な相互理解が不足しており、思惑や価値観が異なっている。しかし、そのような状況であっても、様々な交渉や実務的な協働は、かなりの程度遂行されていることが理解できた。
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