日本の遠洋漁業のおかれた状況は、グローバル化の縮図として捉えることが可能である。漁獲をめぐる国際交渉や競争を見ると、外国人漁船員の雇用増加、海外合弁事業促進、資源管理強化、ナウル協定加盟国の入漁料高騰等の動きが顕著である。他方、漁業の現場に目を向けると、言語・文化の異なる多様な人々が、利益を得るため国境を越えて活動している。ただし、漁船員の行動規範、信仰、価値観は、かなりの程度異なる。脆弱な相互理解の中、多少の軋轢が生じながらも、船上の協働は可能である。多様なアクターの交錯する遠洋漁業の現場では、最低限の利害一致と不十分な相互理解に基づき、安易な混淆を許さない多文化的な空間が立ち現れている。
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