研究課題/領域番号 |
15K03038
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小池 郁子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (60452299)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 思想哲学・教育 / 社会運動 / 人種・民族 / ジェンダー / 植民地主義 / アメリカ研究 / 黒人研究 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、アメリカ黒人の社会運動において、性がどのように位置づけられてきたのかを考察した。具体的には、アメリカ黒人の社会運動(宗教運動、文化運動)において、黒人のジェンダーとセクシュアリティがどのように捉えられてきたのかを、(1)米国社会において人種とジェンダーやセクシュアリティが交錯する社会空間での社会的言説に関する歴史的文献資料を検証するとともに、(2)運動の思想哲学や教義、運動が対外的な戦略として構築する社会像や家族像と文化的象徴物、運動と米国内外のほかの複数の社会運動(宗教、文化運動)との交流史や連携状況、ならびに運動の限られた範囲でおこなわれる宗教的諸実践(儀礼の実践、宗教的位階、一夫多妻制、生活実践共同体の規律、宗教上の家族組織の構造など)から検討した。そのうえで、「少数派のなかの少数派」として議論されることの多い黒人女性や、男性同性愛者、中産階級が、アメリカ黒人の社会運動といかに関わってきたのかを文化人類学的視点から考えた。また、彼らが運動と関わることで、宗教文化の実践や運動の実践形態がいかに変容したのかを検討した。 さらに、アメリカ黒人の社会運動が、現代の米国社会の諸状況から生じる必要性に応じて、異なる人種や宗教を排斥し、運動内部に均質性を強いる集合的な実践、すなわち近代的ナショナリズムの原理によらない運動をいかに模索しているのかに関して、その具体的な方法に注目した。そこからは、男性覇権主義はいうまでもなく、それを批判する過程で創造された男性と女性の社会政治的権力の位置関係が入れ替わった「女性覇権主義」に依拠しないアメリカ黒人の男性および女性の「生と性」(家族観、人生観、労働意識、社会参加・貢献)が探求されていることなどがわかった。個人を抑圧する家族、地域社会、国民国家の再生産とは性質を異にする「人と人との共生関係」が創造されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究は、研究目的および研究実施計画にしたがってほぼ順調に進展している。平成27年度は資料文献の収集・精査 、ならびに文化人類学的な現地調査を短期間にわたり実施することができた。そのため、アメリカ黒人をはじめとする黒人の社会運動(宗教、文化運動)や、市民運動、民族運動そのほかにおいて、人種、ジェンダー、セクシュアリティ、階級、宗教がどのように交錯しているのかを考察することが可能となり、研究を当初の予定にしたがい遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究はおおむね順調に進展したため、今後の研究においても、研究目的および研究実施計画にしたがって取り組めるよう留意する。とりわけ、平成28年度と最終年度も予定している文化人類学的な現地調査は、中期間から長期間にわたって実施する必要があるため、調査対象者、協力者そのほかとの入念な打合せとその後のフォローアップが欠かせない。そのため、本年度も時間的余裕をもって現地調査に望めるよう準備にとりかかる。また、本研究は、その研究目的を達成するため、現地調査と連携させつつ、その研究内容を補足、発展させるべく資料文献の収集、精査に従事するよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究では、アメリカ黒人をはじめとする黒人の社会運動や、市民運動、民族運動そのほかにおいて、人種、性、階級、宗教がどのように交錯しているのかについて検討し、資料文献の収集・精査する必要があった。その際、 運動と米国社会内外のほかの複数の社会運動(宗教、文化運動)との交流史や連携状況に関する資料文献の収集・精査に重点的に取り組んだうえで、黒人女性や、男性同性愛者、中産階級が、アメリカ黒人の社会運動といかに関わってきたのかに関する資料文献の収集・精査に取りかかることが研究調査上必要であると判断した。そのため、後者に係る一部研究調査に関して次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の研究の早期段階において、黒人女性や、男性同性愛者、中産階級が、アメリカ黒人の社会運動といかに関わってきたのかに関する資料文献の収集・精査をおこない、次年度使用額分を支出する計画である。それに平行しつつ、平成28年度の研究実施計画にしたがって研究を実施する。
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