本年度の研究では、アメリカ合衆国の規範的な家族のありかた(家族像)から逸脱しているとみなされてきたアフリカ系アメリカ人の家族、とりわけ社会的病理としてしばしば議論されてきたアフリカ系アメリカ人の男性と女性による関係性の形成/非形成(「家族」の築きかた、性のありかた)に注目し、そこで人種と性がいかに交錯しているのかを検討してきた。具体的には、アフリカ系アメリカ人の家族にまつわる事象のどのような点が問題とされてきたのかを取り上げ、アフリカ系アメリカ人の家族を問題化(異常化)することと、米国が規範的(正常)として提示する家族像との関連性を歴史的に考察した。そのうえで、社会運動(宗教運動、文化運動)にみられる組織上の家族の型と、家族観、性役割、性規範などの特徴について、運動に携わるアフリカ系アメリカ人個人の家族や性をとりまく問題との関わりから考えた。 たとえば、オリシャ崇拝運動の家族や性を考える上で重要となるものがいくつかある。一つに、男女の性差にみる優越ではなく、司祭歴をもとにした階級制度と宗教上の家族の形成。二つに、神々の性と位階、神話における性、一夫多妻制の解釈における男女成員や個々人の差と、その多様で重層的な解釈を可能とする男性結社、女性結社、宗教上の家族の実践的運営。三つに、性を受容する価値観(非-禁欲主義的価値観)の構築である。これらの特徴によって、オリシャ崇拝運動の女性成員は従属的な地位にとどまることなく、家父長的な側面をもつ社会運動そのものを批判、変革しながら運動に従事している。これは結果として、男性成員に「男らしさ」を求め、それにもとづいて家父長的な家族を形成すべきであるという思想哲学や、自由労働イデオロギーから男女双方の成員をかぎられた領域においてではあるが解放し、性と人種に関してあらたな認識をもつ社会空間を形成することにつながっていよう。
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