現代インドの村落・都市中間地帯(rurban、以下ラーバン)における新しいケア関係が、いかに女性たちによって構築され、維持されているかを明らかにするために、ラーバン及び近隣の村落、都市における女子教育と教育を受けた女子のその後の進路の実態について調査研究を行った。4月上旬から7月下旬、9月中旬から1月上旬、3月上旬から3月下旬は、日本国内で関連文献を収集し、読解を進めた。8月上旬から9月上旬、1月中旬から2月下旬は、インド・オディシャー州・プリー県のラーバン地域モトリ在中の女性たち及び村落出身で現在プリー市在中の女性たちに聞き取り調査を行い、ラーバンに住むことの利点についてグループ・ディスカッションを行った。その結果明らかになったのは、女性の社会進出にともない、子どもたちによりよい進学や就職の機会を与えることを目的とし、男子のみならず女子の教育のために、家族が村落からラーバンへ移住するケースが増加していることである。また1991年から継続的に調査を実施しているゴロマニトリ村の住民に聞き取り調査を行った。その結果明らかになったのは、特に看護師などの資格取得のために女子の教育に投資する家族・親族の新たな戦略である。看護師として職を得れば、女性は、嫁ぐ前には親や兄弟姉妹にとっての稼ぎ手になり、婚姻の際には結婚の条件が有利になる。さらに興味深いのは、近年においては、男子に高い教育を受けさせると親は息子に裏切られることが多いため、娘に教育投資をする方が親にとっては有利であるという認識である。そのように、教育を受けた女性は、結婚前も後も自らの家族・親族のケアの担い手として期待されている。それは、従来の父系親族集団、夫方居住婚の規範を揺るがす要因になっているといえよう。
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