最終年度につき、これまでのPDCAを繰り返すなかでそのまとめを考えることになった。とくに有効だったのは、短期ながらウガンダにおいて行った現地調査もさることながら、ブガンダ王国の内情に通暁するジョセフ・ムロンド王子と、長らく共同調査を行っているアドラのマイケル・オロカ・オボ氏を日本に招聘した研究会であった。貴重な機会なので前者には注目されているユネスコ世界遺産、カスビの墓についても発表してもらったが、「呪詛」についても重要な知見が得られた。その結果、ガンダにおける呪詛観念および王国の文化にも理解が深まった。「呪詛」はモラルを維持するための正当な呪術的攻撃として保証されており、社会の秩序を守るという側面を持っている。「呪詛」をかけられる他の例としては、親族(とくに年長者)の品位を貶めることや、親族から財産(とくに土地)を奪うこと、親族(クラン)に妬みを抱くことなど法的対象となるものと共通点が注目された。アドラでは子供の供犠はあまり知られておらず、動物を霊に供犠するのがふつうである。現在のアドラ社会においてもウィッチクラフトや「呪詛」は恐怖の対象であり、近代的開発や発展の妨げになっている側面があるが、オロカ氏によれば、アドラの秩序を保ち、次世代の躾といった観点から、「呪詛」は必要な面もあると主張した。ムロンドは、ブガンダにおけるウィッチクラフトは、薬を用いたりしながら、神や霊と交渉する手段である。呪詛は世代を越えて起こる長期の現象である。呪詛は制御可能なものと治療できないものとがある。ブガンダのウィッチクラフトの多くは霊と関係するものである。すべての研究期間を総じて、法的な部分への研究の進展にはやや不満は残るが、2016年の長島信弘教授との共同調査と、今回の招聘事業を通じて、イテソとバガンダといった系統の違う民族の呪詛の性格のコントラストが解明されたことは大きな収穫である。
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