研究課題/領域番号 |
15K03043
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福井 栄二郎 島根大学, 法文学部, 准教授 (10533284)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 家 / エージェンシー / ケア / ヴァヌアツ / 中山間地域 / スウェーデン |
研究実績の概要 |
平成27年度は科研課題に関する「理論的考察」と「現地調査」を行った。「理論的考察」は、現在、文化人類学の大きな潮流である「存在論的転回」の批判的考察である。具体的には、B.ラトゥール、M.ストラザーンらの諸論であり、非人間的なものにエージェンシーを認めるという立場である。申請者は、これを批判的に考察し、彼らの議論の限界と今後の可能性を論じた。 また「現地調査」は、日本の各地で現地調査を行った。埼玉県には、先の東日本大震災で家を失い、避難した福島県双葉町の方々が暮らしている。震災後5年を経て、彼らにも日常が戻りつつある。そのなかで「双葉町に帰りたい者」と「帰りたくない者」が両極の見解としてとして表れはじめた。実際には、多くの人はその中間点なのだが、これまで「避難者」「被災者」として一枚岩で語られがちだった彼らの生活実態や考え方に、微細な差異が表れ始めたことは特筆に値する。また調査からは「家」の考え方も多様であることが明らかになった。一般には「家」とは、その成員と家屋を指すものであるが、双葉町のなかには農業、畜産業で暮らす人も大勢いる。彼らにとっては、農作物や牛が「家」であり「家族」だという。それらを捨てて避難しなければならなかった彼らの声や考えは、今後の議論に大きく関わってくるものだと考えられる。 また島根県の中山間地域でも聞き取り調査を行った。聞き取りを行った高齢者たちの多くは、病院や老人ホームといった「施設」ではなく、住み慣れた「家」や「地域」で暮らしたいという。他方、介護のことを考えると、家族への負担も大きく、入院・入所もやむなしとあきらめているところもある。こうした点に鑑みると、今後の地域包括ケアのあり方を考えるにあたって、「家」でも「施設」でもないような場作りが急務になるのではないだろうか、というのが申請者の現在の見立てである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査も順調に進んでいる。また本研究課題以前から取り組んでいた課題と、本研究課題がうまく接合し、新たな展開として発展しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
全体的には、申請当時の方策で問題ないと思われる。ただし、オセアニア地域においても家の研究は多くの蓄積があるので、ヴァヌアツだけでなく、他地域も視野に入れた現地調査が必要となるかもしれない。
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