研究課題/領域番号 |
15K03043
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福井 栄二郎 島根大学, 法文学部, 准教授 (10533284)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 家 / エージェンシー / 日本 / スウェーデン / ヴァヌアツ / 記憶 / 比較 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、大きく2本の論文を刊行し、ヴァヌアツでの現地調査を行った。 論文に関して言えば、これまでスウェーデンで行ってきた調査をもとに「家と記憶のエージェンシー」に関する実証的論文と、人類学における比較研究の可能性を論じた理論的論文である。前者は、M.カロンやB.ラトゥールらのエージェンシー論を再考し、「誰がエージェンシーを記述するのか」という点が抜け落ちている点を指摘した。そのうえで、スウェーデンの高齢者施設で行った「家財の記憶」に関するインタビュー調査の結果を用いて、分析を行った。それは、カロンらの主張するアクターのネットワークとも、あるいはカロンらを批判するT.インゴルドのメッシュワークともいえるものであった。いずれにせよ、これらはあくまでも「人々(高齢者やケアワーカー)の物語」であって、人類学者自身の物語ではないことを指摘した。 後者の論文では、近年の存在論的転回において「比較」という視点が欠落していることを示唆した。そのうえで多配列的な比較が可能であるのかをR.ニーダムの議論を手掛かりに再考した。その場合、社会福祉学者G.エスピン=アンデルセンが提唱した「福祉のトライアングル」のような比較研究がとても示唆的であると論じた。もちろん「比較」という視点そのものに修正される点、批判される点は多く含まれているが、それでも比較によって新たな視点が生まれるのであれば、研究を推進していくべきだと主張した。 ヴァヌアツ・アネイチュム島でのフィールドワークは、2015年に甚大な被害をもたらしたサイクロン「パム」の被害状況と現況を調査した。多少、家屋の倒壊、畑の損害もみられたが、首都ポートヴィラに比べると、被害は小さいものであった。また生活も元通りになり、現在では観光業に勤しむ人も増えている。復興から再建・発展へという人々の考えを今後は論じていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文も2本刊行され、海外調査も遂行することができた。 よって、研究課題全体としての進捗状況は、概ね当初の計画通りであるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、比較研究に重点を置く。調査は補足調査的なものになる予定である。 これまでの調査によって収集してきたデータを分析し、学会等で発表を行う(7月の観光学術学会等)。また理論的考察も進め、学会誌等に投稿する。
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