令和元年度(最終年度)は、主に理論的な考察を行った。とくにヴァヌアツで得られた観光業のデータを用いて、彼らの社会変化についての意識を問題にした。ヴァヌアツでは超大型のサイクロン「パム」が2015年に襲来し、私の調査するアネイチュム島も甚大な被害を受けた。人々の家屋は破壊され、その修復に多額の費用が必要となっている。そうした背景もあり、現在、人々はより観光業に力を入れている。しかし観光業の繁栄は、畑仕事などの伝統的な社会生活に支障をきたすものであり、高齢者たちから反発も出てきたのである。こうした社会が二分される状況を、人類学におけるカストム論と結びつけながら、考察を行った(成果は、日本オセアニア学会の学会誌『People and Culture in Oceania』(英文誌)に掲載された)。 またこれまで本研究で得られたデータを用いて、今後もエージェンシーと人格についての考察を行う予定である。昨今、ラトゥールやカロンなど人以外のものにエージェンシーを認める研究が盛んである。そしてそれはストラザーンやヴィヴェイロス・デ・カストロのような存在論へと発展している。これまでの本研究で明らかになったように、家や土地や風景もエージェンシーを持ち人に働きかける。しかしそれは人を育てるただの「容器」という意味ではなく、人格を構築するという、より積極的な意味を持つ。これまでにもオセアニア人類学では、土地の重要性が指摘されてきた。しかし存在論と接続することによって、より新たなフェーズに展開できるのではないかと期待している。
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