本研究では国内外の高齢者に家や家財の記憶についてインタビューを行い、また理論的には「家的な場所」の意義を彫琢したがったが、それには次のような背景がある。 今後、日本の高齢者ケアは施設から在宅へ移行する。私がこれまで調査してきた北欧諸国の場合、グループホームなどには長らく愛用した家具や調度品を自宅から持ち込むことができ、家的な雰囲気がある。愛用品に囲まれることで、高齢者たちは、安心して暮らすことができるのである。 そう考えると、「施設」でも「自宅」でもない「家的な場所」を志向した空間が、今後の日本でも求められるのであり、本研究は今後の在宅ケアのあり方に一石を投じるものでもある。
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