本研究の目的は、文献研究と現地調査を通して、船だんじり(船の形をした山車)とその祭りの地域的展開の諸相、および我が国における船だんじりとその祭りの形成・展開過程を明らかにすることにある。平成29年度は、日程の都合等で前年度までに調査できなかった地域の船だんじりとその祭りに関する現地調査を行うとともに、関連する文献資料の収集を行った。 本研究で確認できた(狭い意味での)船だんじりの数は、北海道15、東北23、関東34、中部244、近畿44、中国39、四国72、九州15と地域によりかなり片寄りがあり、その中でも特定の都道府県(地域)に集中する傾向が見られた(青森県16、千葉20、長野県181)。地理的環境から見ると海、川(生業や交易)との結びつきが強いが、長野県安曇野地方の「お船」のように内陸型(水と関わりを持たない)のものも見られる。船だんじりの形態は大きく(1)御座船型、(2)廻船型、(3)鯨船型、(4)その他に分類でき、(1)~(3)はそれぞれ藩主の海路による参勤交代、廻船による交易、捕鯨の拠点に関連していることが明らかになった。中部地方の「巻藁船」「お船」などは成立の背景が異なり、単独で類型化すべきものであるように思われる。 歴史的には京都祇園祭の船鉾などを除き、ほとんどが近世以降に始められたものである。主に江戸時代に、御座船や廻船といった当時の政治・経済的権力を象徴する豪壮な船が、地域の文化・経済・政治的アイデンティティの象徴として取り入れられ、各地に船だんじりの文化が開花したと考えられる。なお、調査の過程で海上渡御・川渡御を伴う事例、船型神輿、船型舞台、船型模型を用いた儀礼などの事例も見いだされ、「祭りにおける船」というより広い視点から船だんじりの位置づけを行う必要性があることも確認された。
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