今年度(平成30年度)の研究は、平成29年度末頃より本研究課題に関連した動きが調査対象地においてみられたことから、補助事業期間を延長して実施したものである。 本研究では、日本各地で開催されるようになった地方国際芸術祭のひとつである瀬戸内国際芸術祭(以下、同芸術祭)の会場(離島地域)をメインフィールドとし、アート活動と地域活性化の親和性について民族誌的手法を用いて検討することに取り組んできた。これまで3年にわたる調査研究では、同芸術祭に関する全体把握、同芸術祭会場地域での参与観察および聞き取り調査、類似事例に関する情報収集、事例分析の手がかりとなる先行研究と理論の渉猟を重ねた。フィールドワークでは、A市B島において、芸術祭会期中に留まらず会期外の島内の動きにも注目し、住民のアート活動への関わりについて質的調査をおこなった。その結果、①会期外にも地域住民の意向を汲んだアート実践が展開されている地域があること、②当該地においては、住民がそのアート実践をひとつの足がかりとして、芸術祭に関する意向を表明するに至ったことを明らかにすることができた。本研究ではこの動きを「はみ出しの実践」と名づけ、地域文化観光の概念と関連づけて分析し、地域振興との親和性について検討をおこなった。 分析作業のプロセスでは、アート活動と地域活性化の親和性を考える上でのカギのひとつが、人材育成にあるとの仮説を立てるにも至った。この仮説を基に、本研究目的のさらなる精緻化を目指して追加したのが、同芸術祭運営者が実施した人材育成プログラムの追加調査である。同プログラムには、前年度までの調査で観察された人材育成のプロセスとは異なるそれがみられた。結果、両者を比較することで、育成のプログラムやプロセスのあり方の相違がもたらす地域文化観光の深化・拡充のありようを検討することができた。
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